政府の追加の経済対策の「目玉」が、定額給付金の交付です。所得に関係なく、夫婦子ども二人のモデル家族で約6万円ほどの給付が受けられる、全体で2兆円をやや上回る規模になりそうです。まずこの給付金と消費支出について考えてみましょう。
この政策の経済的な効果については、経済の専門家の意見は概ね辛口のようです。理由は「貯蓄にまわる」「借金の返済にまわってしまう」「先の支出を前倒しする効果しかない」というところでしょうか。実例としてあげられるのが、1999年に行なわれた地域振興券の結果でしょう。6000億円ほどの政府支出で99%が使用されたにもかかわらず、経済効果は大きく見ても2000億程度しかないとされました。今回の処置は、前回のように地域限定の商品券だけではなく何種類かのチケットになるようなので、使い勝手はかなり良くなるはずです。また配布対象が納税していないお年寄りや子ども、生活保護所帯などに限られていたのと異なり、今回は全世帯(所得制限を考えているようですが)に対する給付なので、給付されたチケットが使われる範囲が広くなることも予想されます。こうした違いがありながら、専門家は景気拡大効果を限定的なものだと見ているのです。
定額給付金を行なうことになったのは、前回の地域振興券と同様、公明党の選挙対策です。企業経営者や高額所得者、そして地方の農林水産業に支えられた自民党の支持基盤に対し、中・低所得者層や中小企業経営者が支持基盤である公明党が、支持者に対する実績として自民党に実現を迫って行なわれることになりました。従って、経済効果を考えて打ち出された政策ではなく、財源も「どこでもよいから引っ張ってこい」式に決められました。本来なら国の借金の返済に充てる予定の「埋蔵金」を使うのだそうです。こうした「埋蔵金」の存在を否定して来た政府・与党が見つけた「宝」のようなものなのでしょうね。
さて、1人1万円強、4人家族で6万円という給付金の意味を考えてみましょう。確かに、ぎりぎりの生活をしている人にとっては、大変ありがたい政策でしょう。インターネット上にたくさんある「経済/家計や借金の相談サイト、掲示板」のたぐいを見ても、とても多くの人たちが、5万、10万、場合によってはさらに小額のお金のことで苦労をしていることがわかります。では実際にこうした「現金の配布」が景気対策にとってどのくらい有効なのでしょうか。それを理解するためには、所得や家族構成による支出(消費支出ではない!)の分析が欠かせません。
借金や何がしかの延滞を抱えている世帯(単身家庭も含む)なら、こうした臨時収入は返済や延滞の解消に使われるでしょう。こうした使われ方が景気と無関係であるとは言いませんが、消費を喚起する意味はありません。何故かと言うと、このような家庭は構造的に収入と支出のバランスを欠いていることが多いからです。言い方を変えると、「破綻を先送りした」ことにしか繋がりません。ぎりぎりの状態で生活を送っている場合も同様です。何がしかの「消費の先取り」になる可能性は少なくありませんが、このくらいの額では思い切った買い物をすることはできないでしょう。逆に、充分な所得があり余裕がある世帯にとっては、この程度の金額で何か新しい買い物をすることはないように思います。一番消費支出を増やす効果が期待できるのは、この中間の層だと考えられますが(もちろん、「ありがたみ」があるのは、低所得者層です)、今の日本の政策は、こうした「中間層」を破壊し続けているのです。
消費支出を増やすためには、現実に支出するお金があることと、それを使ってしまえる安心感や信用が必要です。そのためには、一過性の「キャッシュのばらまき」では意味がないのです。
もうひとつ付け加えなければなりません。長期的に見て消費を向上させるためには、将来の支出増に耐えられる世帯を増やさねばなりません。単身世帯やアパートさえ借りられない層の増大は、家庭を作る/子どもを育てる、という支出のサイクルを破壊します。経済的な理由で結婚できない20、30、40代の著しい増大は、長い目で見た時に、日本の支出構造を大きくゆがめてしまいます。こうした点を考慮することは、企業ベースではできません。利益を上げるために人件費を削らなくてはならない企業は、将来の日本の支出構造には全く興味がないからです。
私が生活者レヴェル、特に低所得者層に対する景気対策として是非とも必要だと考えていることは、住居の保証です。家を借りることができない、いわゆる「ネット難民」や、潜在的な「難民」である期間労働者などを主な対象に、家賃負担に喘いでいる世帯に対する限定的な保証を含めて行なうことが必要です。現在、全国で700万を超える「空き家、空き部屋」があると言われています。さらに、期間労働者の雇用をやめてしまった(ないしはこれからやめる)ために空いてしまう寮なども利用できるでしょう。こうした家屋を利用して、地方公共団体単位で住居費の保証を行なうのです。突拍子もないアイデアであることは承知ですが、どれほどの財源が必要であるか、ひとつのパターンを考えて荒っぽく計算してみましょう。
定職がない非正規雇用の単身者で正規の就労意思がある100万人に対して、月3万円、1年限定の補助をするとします。単純に計算すると、3600億円の財源が必要です。空き家を持っているオーナーにとっては、「空いているよりはこのくらいなら安くても良い」という価格を申請してもらいます。もちろん、地域格差がありますから、東京と地方ではメリハリを付ける必要があります。その分を見越して4000億と思っておきましょう。さらに、引っ越しに対する一時金を、必要であれば貸し付けます。トータルして5000億円ほどの財源を見ておきましょう。形式的には、これらはすべて「貸し付け」にします。同時に、職業訓練の充実(これはこれで別に論じてみたいと思います)や新規雇用に対して企業に補助(減税や直接の補助金)などを行ないます。大雑把に、これらの財源に5000億ほど(一人当たり50万円の補助と同じです)を用意しましょう。これでトータル1兆円。
雇用の場の確保のためには、まず介護・看護といったマンパワーが必要(不足)している分野から手を付けましょう。まず、介護保険の点数などを全面的に見直します。マンパワーの部分に手厚く、器具などは厳しく査定する、などのメリハリを十分につけます。政府が考えている介護保険報酬の3%アップだけにとどまらず、10%ほどのアップを考えてみましょう。3%アップに必要な財源は2100億円(うち、国費550億円)ですから、その三倍が必要となります。国費以外の負担を減らすために、半分の3000億円ほどを国費でまかなうことにしてみます。現状では、利用が少なく事業費用が余っている状態(例えば北海道では150億円ほどの余剰金があります)ですので、報酬をアップして内容を充実させることで利用者も増加するはずです。また、場合によっては、看護学校などに進学するときの奨学金制度(看護の現場で10年働けば返済しなくてもよい、などの特例つき)などを新たに設けてもよいかもしれません。地方の病院での看護士不足を補うための財政援助も同時に行ないます。これらの財源として、年間3000億ほど見積もってみましょう。トータルで6000億円。
これだけで1兆6000億という巨額の費用が必要ですが、これらは「生きた使い方」になるのです。空き部屋を抱えているオーナーにとっては、十分ではありませんが収入増につながります。1年間、住居の心配をせずに就労に専念できる非正規雇用者のなかには、結婚や子育てができる側にまわれる人が万単位ででてくるでしょう。もちろん、就労した後に入ってくる税金や補助金の返却などを考慮すれば、負担ははるかに減ります。単なる「思いつき」ではありますが、さまざまな条件を考えて練り上げれば、2兆円を一過性の「つかみ金」としてばらまくより、長期にわたって影響を与える政策に仕上げることが可能ではないかと思うのです。そして、こうした「アイデア」は、英知を集めればいくらでも出てくるのではないかと思います。
日本の現状を考えるとき、本当に必要な生活支援は、これまで30年間の間に壊されてしまった中産層(言い方を変えれば、家庭を持って子育てができる層)を増やすことだと思います。もちろん、こうした政策が有効に働くためには、保育所の充実や医療の立て直しなども必要なのですが、より大きな目を持って経済政策を考えないと、これまでの「失政」の繰り返しになってしまうのではないかと思います。
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