外交/国際

2009年10月14日 (水)

本日の「怒」091014/どちらに理があるか・・アフガンをめぐる社説はみごとに分かれていますが・・・


 しばらく、体調不良と休暇でお休みしていました。本日から復帰します。

 今日のテーマは「アフガン」。私としては、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞は納得がいきません。その最大の理由が中東政策です。オバマ政権は、まだアメリカ政府が綿々と続けてきた「力の政策」を転換していません。いわば「力のかけどころ」を修正しただけ。そんな状態で「核廃絶宣言」だけでオバマ大統領に平和賞を与えたノーベル委員会には、「本当に核廃絶をやれよ」という、いわば強烈な「メッセージ」を送りつけたつもりなのでしょう。しかしながら、アメリカ外交の基本である「力による他国の支配」を改めないかぎり、そしてその象徴であるアフガンからの撤退なくして、オバマ政権がアメリカを本当に「チェンジ」させようとしているとは到底言えません。(「米国大統領にオバマ氏(2)・・外交はどうなる」「これで大胆な「チェンジ」が期待できるだろうか/オバマ新政権の閣僚名簿から読めること」「オバマ新大統領への期待と不安」参照)

 それはさておき、岡田外相の電撃的なアフガン訪問は大きな話題になりました。14日の各社の社説は、いずれもこの話題を取り上げています。

 自衛隊を正式な軍隊にすることや海外派兵、アメリカ追随外交を「社是」とする(笑)産経、読売両紙は「給油継続」を強く主張し、日経、毎日は「選択肢のひとつとして給油を継続することを、朝日、東京は民生支援に重点を置いた見直しを主張しています。

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【主張】インド洋補給支援 国益損なう撤収の回避を
2009.10.14 03:05 産經新聞

 インド洋での海上自衛隊による補給支援活動が、来年1月で中断される公算が大きくなった。岡田克也外相が、活動を継続するための法案を臨時国会に提出するのは困難だとの見通しを示したためで、平野博文官房長官も「外相の発言は重い」と同調した。

 提出見送りは、社民党の反対に加え、臨時国会の会期が今月下旬から1カ月程度では十分な審議時間がないからだという。これにより日本はテロとの戦いから脱落する。アフガンでの対テロ戦争に苦悩する米国の足を引っ張り、日米同盟を損なうことになる。国益は維持できない。鳩山由紀夫首相には再考を求めたい。

 鳩山首相や岡田外相はこれまでも「単純延長はしない」というあいまいな姿勢を続けてきた。国会の事前承認など、現行の新テロ対策特措法に新たな条件を付けて継続する道をなお探るべきだ。

 岡田外相は、アフガニスタンに続いて訪問したパキスタンで「国会日程は窮屈だ。いろいろな調整が必要になるので臨時国会でというのは現実には難しい」と記者団に語った。ザルダリ大統領やギラニ首相は「燃料と飲料水の補給支援をぜひ継続してほしい」と活動継続を求めたが、岡田氏は「期限切れ後の対応をいろいろ検討している」と述べるにとどめた。

 継続を期待されている補給支援を打ち切ることの説明としてはまったく不十分だ。日本の政治状況を伝えるより、外交の責任者として国益を踏まえた判断を示してほしかった。

 政府はアフガンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)の地方復興チーム(PRT)に文民を送った。これまでも民生支援は行っているが、新たに元タリバン兵士の職業訓練や農業支援の拡大などを検討しているという。だが、治安状況を考えれば軍隊による護衛が常に必要で、大規模な文民派遣は困難とみられる。民生支援は具体化できず、補給支援の中断だけが決まる状況で、オバマ米大統領の訪日を迎えられるだろうか。

 政府は7月の衆院解散で廃案となった北朝鮮関係船舶に対する貨物検査法案も国会提出を見送る方向だ。内政課題が山積しているとしても、国際的な責務を果たす案件を後回しにしてはならない。

 審議時間が足りないなら必要な会期を設定すればよい。首相の個人献金問題などの追及を避けたいというわけではあるまい。

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アフガン支援 給油活動継続の道を探れ(10月14日付・読売社説)

 テロとの戦いの最前線に立つアフガニスタンでは、多くの国が犠牲を払いながら、治安の回復に努めている。日本が民生分野の支援だけで済ませるわけにはいかない。
 岡田外相がアフガニスタンとパキスタンを訪問した。鳩山政権として打ち出すにふさわしい支援策を探るため、両国の実態を自分の目で見たいと考えたという。

 外相は、旧支配勢力タリバンの元兵士に対する職業訓練への資金援助など、民生分野の支援に力を入れる考えを強調した。

 日本はこれまでも、民生支援では主導的役割を果たしてきた。学校や診療所の建設、警察官の給与肩代わりなど、支援額の累計は約18億ドル(約1600億円)に達する。民生支援を強化することは、アフガンからも歓迎されよう。

 だが、インド洋での海上自衛隊の給油活動は、これとは別の問題と考えるべきだ。

 外相は、給油活動を延長する法案を臨時国会に提出しない考えを表明した。来年1月の期限切れとともに、海自を撤収する可能性が強まっている。

 海自の艦船が燃料や水を補給している対象は、インド洋で海上阻止行動に従事するパキスタンや米英仏独の艦船だ。テロリストの移動や、武器・弾薬、活動資金になる麻薬の海上輸送を遮断することが、阻止行動の目的である。

 アフガン本土では、欧米諸国を中心に42か国が参加する国際治安支援部隊(ISAF)が治安維持にあたっている。米軍主体のテロ掃討作戦を含め、これまでに約1400人の犠牲者が出ている。

 外相はアフガン滞在中、防弾車での移動を余儀なくされた。それが如実に示すように、治安の回復こそ最重要課題であり、各国が大きな代償を払いながら取り組んでいることを忘れてはならない。

 国連安全保障理事会は先週、ISAFの活動延長を決議し、海上阻止行動を含めた参加国に対する「謝意」を表明した。アフガンを再び国際テロの巣窟(そうくつ)としないためには、ISAFやインド洋での活動の継続が欠かせない。

 そうした中、日本だけが給油活動を中止し、戦線離脱すれば、国際社会の目にどう映るだろう。

 民主党では、小沢幹事長がISAFへの参加に前向きな姿勢を示したことがあるが、党内の大勢は慎重論だ。ならば、給油活動を続けることが、最も理にかなった人的貢献策ではないのか。
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 この両紙はもちろん「はじめに給油継続ありき」ですから、当然こうした議論になるでしょう。

 これに対して、日経、毎日はやや「分析的」です。「給油活動に代わるものが明示できるか」という点にも重点があるからです。

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社説1 やはり「小切手外交」を繰り返すのか(10/14 日経新聞)

 岡田克也外相は、来年1月に期限が切れるインド洋での給油活動の関連法の臨時国会への提出に関し「現実的には難しい」と述べた。海上自衛隊による給油活動は中断する結果となる。

 外相はアフガニスタンを7時間視察したが、インド洋の給油現場には足を延ばさぬまま、あっさり活動中断を意味する発言をした。結論先にありき、だったように見える。

 日本政府は、沖縄・普天間基地をめぐる日米合意、インド洋の給油作業に関する態度をパッケージの形でまとめ、11月12日に来日するオバマ米大統領に示す方針とされる。

 2つの案件のうち、一方は日米合意、他方は日本が自主的に決める問題である。本来は関連のない2つの問題をひとつにまとめて考えるとすれば、それ自体が奇妙に映る。

 沖縄は現行の日米合意通り進め、給油はやめるとする戦術であれば、透けて見えるのは、連立政権を組む社民党との関係を念頭に置いた内政上の思惑だろう。外交の観点に立てば給油中断は簡単にはできない決定である。

 私たちは、給油をやめる場合、(1)給油以上に意味があり、(2)安全性も同等以上であり、(3)「小切手外交」と批判されない人的貢献――が要ると書いてきた。中断は「カネは出すが、汗はかかない」と国際的に批判された小切手外交につながる。

 アフガニスタンでの民生支援は当然だが、既に外務省、国際協力機構(JICA)、非政府組織(NGO)など130人が現地で活動していると伝えられる。これを大幅に増やせる治安状況ではないのは、厳重な警戒のなかで現地を見た外相が一番わかっているはずだからだ。

 給油中断は米国や北大西洋条約機構(NATO)諸国ら「有志連合」で進めるアフガニスタンでの対テロ戦争からの離脱を意味する。日米首脳会談の後に鳩山由紀夫首相が「信頼関係を構築できた」と語ったオバマ大統領との関係にも影響する。

 オバマ氏は兵力増強を求める現地司令官、削減を求めるバイデン副大統領との間で苦悩する。日本の離脱は、本音は撤収したいが耐えているNATO諸国にも影響する。オバマ政権の苦悩は深まる。日米関係が負う傷は、外相の想像より深い。

 給油継続論の長島昭久防衛政務官は、職を賭して外相に翻意を求める必要がある。藪中三十二外務次官も同様である。1981年、高島益郎外務次官が当時の鈴木善幸首相の日米同盟に関する発言をめぐって辞意を表明した前例もある。

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社説:「給油」撤収問題 アフガン総合策を示せ(毎日新聞)

 アフガニスタン支援策を探るため同国とパキスタンを訪問した岡田克也外相が、来年1月15日に期限が切れる新テロ対策特措法の延長法案を臨時国会に提出するのは困難との見方を示した。インド洋での給油活動を打ち切り、海上自衛隊を撤収する公算が大きくなったことになる。

 鳩山由紀夫首相や岡田外相はこれまで「単純延長はしない」と発言してきた。北沢俊美防衛相が1月撤収を明言する一方、防衛省の長島昭久政務官が先週、海自派遣に対する国会承認を盛り込んだ法案に修正して給油活動を継続する考えを示すなど混乱したのも、「単純延長せず」の真意が不明だったからである。

 今回の外相発言は、撤収の方向に一段と踏み込んだものである。しかし、その内容には疑問が残る。来年1月の期限までに延長法案提出が間に合わないというのを理由の一つにしているが、修正法案であっても臨時国会で成立させる意思があれば可能である。政府が現在、検討している臨時国会で審議する法案の中に給油問題が含まれていないというのは現状の説明にすぎず、外相が給油中止の理由に挙げるのはおかしい。

 また、連立相手の社民党が自衛隊の海外派遣に反対していることも理由の一つのようだ。しかし、問題は連立政権で圧倒的多数を占める民主党から政権入りした首相や外相の考えである。これを明らかにしないまま社民党の姿勢にかこつけるのは、あまりに主体性がなさすぎる。

 政府に求めたいのは、外相のアフガン訪問を踏まえ、早期に総合的なアフガン支援策をまとめることだ。

 日本政府は過去、約20億ドルの人道・復興支援を表明し、すでに約17.9億ドル分を実施している。平野博文官房長官は「農業の再興、民生の支援」を柱とする考えを示し、外相はアフガン訪問時に、反政府勢力タリバンの元兵士への職業訓練を実施することを表明した。

 しかし、支援の具体的な全体像にはほど遠い。アフガン国内の急速な治安の悪化が、アフガン本土への要員派遣を困難にし、民生支援の選択の幅を狭めているのが現実である。

 毎日新聞は、給油活動もアフガン支援の選択肢の一つであると主張してきた。これをやめる場合は、過去の給油活動を検証し、関係国のニーズ、有効性の低下など中止の積極的な理由を示すと同時に、給油活動に代わる、より効果のある支援策を打ち出さなければならない。

 自民党は臨時国会に給油活動延長法案を提出するという。政権を揺さぶる狙いもあるのだろう。論戦のテーマになるのは確実だ。鳩山政権には、これに対抗しうる説得力を持った支援策を提示してもらいたい。
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 これに対し、朝日、東京両紙は、給油活動の停止に理解を示しています。

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対アフガン戦略—抜本的な見直しの時だ 10月14日 朝日新聞

 岡田克也外相がアフガニスタンを訪問し、反政府勢力タリバーンの元兵士に職業訓練を行うなど、新たな支援策をカルザイ大統領に伝えた。

 9.11テロ後のアフガン戦争でタリバーン政権が崩壊して間もなく8年になる。この8月の大統領選は、カルザイ政権の不正の報告が相次ぎ、いまだに結果が確定しない。勢力を回復したタリバーンの激しい攻勢のもとでテロも続発し、情勢は極めて不安定だ。

 この状況下で岡田外相が現地を訪れ、日本の支援継続の姿勢を示したことをまず評価したい。

 米オバマ政権が3月にまとめた「包括的新戦略」で強調したように、民生支援なしに軍事だけで現状を打開できないことは明白だ。日本は、農業のインフラ整備や警察官の給料の肩代わりなどで大きな貢献をしてきた。

 治安情勢など厳しい条件の中で日本ができることを考え、支援継続、拡大の姿勢を示すことは不安定化を阻止するために重要だ。元兵士への支援は、タリバーンの戦力拡大を防ぐためにも必要である。教育や農業支援などにもさらに知恵を絞ってほしい。

 オバマ政権は戦略の再検討に入り、難しい判断を迫られている。駐留米軍の司令官は4万人の増派を要求している。だが、米国内には戦争の泥沼化に通じかねないとの異論も強い。

 実際、米国でも国際治安支援部隊に参加している欧州諸国でも、兵士の犠牲が急増していることで厭戦(えんせん)の空気が広がってきている。

 オバマ氏が「必要な戦争」としてきた論拠も揺らいでいる。アフガンを根拠としていた国際テロ組織アルカイダは、ビンラディン容疑者の所在はなお不明だが、拠点をパキスタンや北アフリカに移している。

 米の「新戦略」がすでに指摘しているように、パキスタンへの支援も一体に考えねばならない。パキスタンでは地元のタリバーン勢力によるとみられるテロが続発している。陸軍総司令部も武装集団に襲撃され、同国の核管理態勢への不安も一気に高めた。

 アフガンに兵員を増派しても、民間人の犠牲が増えては、治安改善の効果は乏しいだろう。アフガンを「オバマのベトナム」にすることなく、効果的にテロを抑止できるよう、抜本的な戦略の見直しに努めてほしい。

 日本が安上がりで効率的な貢献として続けてきたインド洋での給油は、来年1月に期限が切れる。米国が対アフガン戦略全体の見直しを迫られているいま、鳩山由紀夫首相は民生を主体とする貢献策について、オバマ氏に十分説明し理解を求めるべきだ。

 その上で、より大きな文脈の中でアフガン安定化と対テロへの日本の貢献策をさらに積極的に探ってゆく。それが同盟国の果たすべき責務だろう。

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アフガン支援 現地が望む民生分野で 東京新聞 2009年10月14日

 「自分の目で現状を」との強い希望で岡田克也外相がアフガニスタンを訪問した。六時間の滞在でも現地が何を求めているか肌身で感じたはずだ。得意とする民生分野での支援の進め方を考えたい。

 鳩山政権の方針で、アフガンでの対テロ作戦のためにインド洋で行っている海上自衛隊の給油活動は根拠法が期限切れとなる来年一月まで、との見通しが強まった。

 「国際社会で評価されている」との意見もあるが、生活向上につながる民生支援をアフガン国民がより求めているのは間違いない。

 日本は、米英両国に次ぐ二十億ドル(約千八百億円)の援助を実施・表明してきた。五百五十以上の学校を建設・修復し、ケシ栽培に走らぬようなカーペットやジャガイモなどの一村一品運動を広め、警察官八万人の半年分の給与を支援した。非政府組織(NGO)の活動を含め、民生分野で他国にまねのできぬ実績をあげてきた。

 ただ、今の治安状況で支援をどう進めるか。五十メートルごとに治安要員が立つ沿道を防弾車で移動した外相も難しさを実感しただろう。

 大統領選は相次ぐ不正発覚で、二カ月近くたっても当選者が決まらない。旧政権タリバンが勢力を盛り返し、週一回以上襲撃を受ける地域は国土の八割に及ぶ。米軍の今年の死者は約二百三十人と、既に年間の最悪を記録した。

 農業指導していた日本のNGO「ペシャワール会」の男性スタッフが昨年八月に殺害され、現在、日本からは、国際協力機構(JICA)などが派遣した最小限度の約五十人が活動している程度だ。

 しかし、カブール空港ターミナル建設のように、日本人技術者が駐在しなくても国外から現地スタッフと連絡を取り合って完成させた例もある。日本は、元タリバン兵士を社会復帰させる職業訓練や農業支援を柱に考えているが、安全最優先での工夫はできないか。

 六万人以上の兵士を派遣している米国でも「戦う価値がない」という世論が半数を超え、オバマ政権は増派に踏み切るか、戦略の見直しを進めている。国際治安支援部隊(ISAF)に参加する欧州諸国も「犠牲者を出す戦闘部隊でなく、アフガン国軍を訓練する部隊の増派を」などと新たな支援を探っている。

 各国がばらばらに支援を見直すだけでは、泥沼化した今の情勢は変えられまい。可能な分野を提案し合い、一体化した国際支援となるよう調整する必要があろう。
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 この6つの社説を比べて面白いのは、継続強硬派の産経、読売と条件付き継続派の毎日がアメリカの国内情勢や他の国の事情にほとんど触れていないことです。これに対して、朝日、東京はアメリカの世論にふれています。また、パキスタン情勢にもふれていますね。

 このあたりに、スタンスの違いが「何を情報源にするか」という「選別」につながっていることがよくわかります。

 朝日社説が取り上げているアメリカの分析(アルカイダが拠点をパキスタンや北アフリカに移していることなど)や、アメリカでアフガン派兵に対する疑問が広がっていること、そして「本音は撤収したいが耐えているNATO諸国」は、給油活動継続派にとっては「都合の悪い情報」です。

 私は、そもそもアフガン派兵そのものに反対の立場ですから、給油活動の停止は結構なことだと思います。しかし、岡田外相や民主党政権がアフガンについて何を考えているのかは、報道を見ている限り「なぞ」です。アメリカの民意の「腰が引けている」状況では、日本は東京新聞が主張しているように「可能な分野を提案し合い、一体化した国際支援となるよう調整する」ための旗ふりをすることが、現状として一番確かなことではないでしょうか。

2009年9月18日 (金)

本日の「怒」090918/オバマ政権の外交政策・・・「チェンジ」の突破口になるか

 今日の朝刊に、こんなニュースがありました。各紙とも(かなり濃淡はありますが/苦笑)大きな扱いですので、すでに見た方もおおいでしょう。

********* 朝日新聞より *************

大統領、東欧のMD計画中止を表明 米ロ核軍縮に弾み
2009年9月18日1時16分 【ワシントン=望月洋嗣】

 オバマ米政権は17日、欧州の旧共産圏ポーランド、チェコにミサイル防衛(MD)網関連施設を配備するとしてきた現行計画を中止すると発表した。イランから欧州への中・短距離ミサイルによる脅威を想定し、イージス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を軸に、11年から新たなMD計画を進める。

 米国による東欧諸国へのMD配備は、ブッシュ前政権が「イランの核兵器や弾道ミサイルの脅威から欧州を守る」とうたって進めた。だが、ロシアが「真の目的は我が国の戦略核を無力化することだ」と強く反発、米ロ関係悪化につながっていた。東欧配備の中止によって、年内妥結を目指して進行中の米ロ核軍縮交渉でも、大きな障害が取り除かれそうだ。

 米国防総省は最新の情報として、欧州を射程に入れるイランの中・短距離ミサイル開発が予想より早く進む一方、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発は遅れていると分析した。これを受け、新システムの構築では「すでに能力が証明済みで、費用対効果が上がる技術を使う」(オバマ大統領)ことになった。

 ゲーツ国防長官が記者会見で説明した新たな計画では、SM3と移動型レーダーによるシステムを11年から配備。15年にはSM3を改変した地上配備型の移動式迎撃ミサイルも加えて、防衛能力を強化するなどとしている。その結果、チェコとポーランドに配備予定だったレーダーや地上配備型の迎撃ミサイルは不要になる、という理屈だ。

 一方、東欧諸国が、対ロシア優先での切り捨て策と不満を抱くことに配慮し、オバマ大統領は「ポーランドやチェコとは今後も集団的な防衛で協力していく」と述べた。

 米国はブッシュ政権下で、北朝鮮のミサイルの脅威を想定した限定的な地上配備型ミサイル防衛網を米本土の太平洋側に配備し、日本とも国際協力を進めてきた。路線変更が東欧配備の中止にとどまれば、直接の影響は小さいとみられる。
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 オバマ政権が発足した時のエントリー「オバマ新大統領への期待と不安」とクリントン国務長官らが決まった昨年12月のエントリー「これで大胆なチェンジがきたいできるだろうか/オバマ新大統領の閣僚名簿から読めること」でも述べましたが、オバマ政権は「チェンジ」を掲げて登場したわりには、予想通り外交政策ではあまり大胆な転換をして来ませんでした。

 特に、対イスラエル、アラブに対しては、民意を失ったイラク派兵の終息を決定した後に「テロとの戦いの主戦場はアフガン」として、アフガンでの対タリバーン対策に注力を注いでいます。

 私は、こうした「キリスト教社会の過剰なイスラム社会への介入」がもたらす「憎悪の連鎖」を危惧するものであり、オバマ政権のアフガン対応は、はっきりいって誤りであると思います。

 そうした中で、初めて「オバマらしさ」が出た外交対応がでました。MDは、その実効性も怪しいにもかかわらず、「配備するぞ」という「脅し」がロシアに対する圧力になると考えたネオコンと防衛産業が結託して推進の旗ふりをして来たものです。イランのミサイルに対処するため、というのが表向きの理由ですが、相変わらず「ロシア=悪」という固定観念に凝り固まったアメリカ保守派の「置き土産」であることは明らかです。

 MD配備は、ある意味で一番手をつけやすい「チェンジ」です。これを突破口にして、オバマ政権が「新自由主義」「新保守主義」からの「意識のチェンジ」を実行して新たなる世界観を見せてくれることを期待したいと思っています・・・・それほど楽観的ではありませんが・・・・

2009年7月 4日 (土)

本日の「怒」090704/当選を単純に喜ぶわけにはいくまい/IAEA事務局長選挙の真実

 3月の選挙で当選者がでなかったIAEAの事務局長を選ぶやり直し選挙で、ウィーンの政府代表部の天本之弥氏が当選しました。当ブログでは、3月28日のエントリー(本日の「怒」090328/IAEA事務局長選挙の「当然の結果」)で天本氏が信任票を集められなかった結果を、日本の外交が核廃絶に対して何も努力して来なかった当然の結果であることを指摘しました。今回の選挙でも、天本氏は当選したとはいえ、前回選挙の得票を一票も伸ばすことはできず、一カ国が棄権したために当選ラインが下がって当選するという、実に「お粗末な」結果となりました。

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IAEA事務局長に天野氏 先進国と途上国 深い溝浮き彫り
2009年7月4日東京新聞朝刊
 【ウィーン=弓削雅人】国際原子力機関(IAEA)は三日、ウィーンの本部で理事会を開き、次期事務局長に日本の天野之弥ウィーン国際機関代表部大使(62)を任命した。九月の年次総会で正式承認される。天野氏は理事会後の記者会見で先進国と途上国との関係に触れ「どの国、地域での意見も反映させて運営していく」と、結束して課題に取り組む姿勢を示した。
 二日の特別理事会では、信任投票にもつれ込んだ末、棄権票が一つ出て当選ラインが下がったことで天野氏は必要な支持数ぎりぎりで選ばれた。秘密投票だったため棄権に回った理事国は定かでないが、日本側は天野氏をはじめ、東京や理事国駐在の外交官もぎりぎりまで懸命の働き掛けを続けた。明確な信任表明でなくても棄権は天野氏に有利に働くことになり、まさにこの一票が勝敗の分かれ目となった。
 問題は、前回選挙も含め、当初から最有力の天野氏が苦しんだ背景。外交筋は、天野氏が当選すれば先進国に有利で途上国への配慮を欠いた運営を主導する、との懸念を途上国が持っていると指摘。IAEA内にある先進国との間の溝は容易には埋まりそうにない。
 IAEAは核燃料の安定供給と核濃縮技術の拡散防止を目的に供給保証のシステムを議論している。原発に使う低濃縮ウランを備蓄して市場価格で供給する国際管理の仕組みだが、途上国に対し原子力技術の新たな取得を制限し先進国が独占しようとするものとの反発もある。北朝鮮やイランの核開発問題に加え、途上国の先進国への不信感解消も天野氏にとって課題となる。
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 日本政府や多くの政治家の「核廃絶」への思いが嘘っぱちであることは、7月1日付のエントリー(「言論の自由のはき違えと核廃絶の嘘」)でも取り上げたように、自民党の主要な政治家や民主党の一部議員が、核武装を旨とする団体と強く連携していることでも明らかです。こうした事実は、アメリカの核政策に盲目的に追従してきた日本外交とともに、多くの途上国に不信感を与えています。再投票でも支持が増えなかった結果は、「当選したことが日本外交の勝利」ではなく、「どうやっても不信感を拭えない日本外交の惨めさ」を物語るものです。

 産経、読売の社説は、「北朝鮮、イランの核問題」と「温暖化防止に向けた原子力の平和利用の重要さ」に力点がありました。

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【主張】核の番人 不拡散に強力な指導力を(産経新聞)

 国際原子力機関(IAEA、本部・ウィーン)の次期事務局長(任期4年)に、ウィーン国際機関日本政府代表部大使の天野之弥(ゆきや)氏が選出された。エルバラダイ現事務局長の後を継ぎ、12月に就任する。
 IAEAは原子力の平和利用促進と軍事転用防止を担う。「核の番人」と呼ばれる重要な国際機関のトップにアジアから初めて、唯一の被爆国である日本から原子力・軍縮を専門とする外交官が選ばれた意義は大きい。
 IAEAは1957年に発足した。当初52だった加盟国は現在146を数える。事務局長の下に核不拡散を担当する保障措置局など6局が置かれ、2300人のスタッフを擁する専門家集団だ。しかし、核物質の軍事転用に目を光らせ、核拡散を防ぐ保障措置協定には強制力が欠ける。組織の予算や人員も十分とはいえない。
 核拡散防止条約(NPT)運用検討会議第1回準備委員会議長を務めた天野氏には、そうした核の番人の弱点を改善し、機能や能力を強化する役割を期待したい。
 決着をみなかった3月の事務局長選のやり直しとなった今回の再選挙でも、天野氏は規定による投票繰り返しの末に選ばれた。ぎりぎり当選の背景には、すでに原子力技術を持ち、核不拡散を重視する先進国と、原子力利用の制限を嫌う途上国の反目がある。
 IAEAにとって継続中の難題は、北朝鮮とイランだ。
 北朝鮮は5月に2度目の核実験を行っただけでなく、使用済み核燃料棒再処理やウラン濃縮の着手まで表明した。核施設の無能力化作業を監視していたIAEA要員は4月に退去させられたままだ。核兵器の開発疑惑がもたれるイランは「核平和利用の権利」を主張してウラン濃縮を続けている。
 むろん、米英仏中露の核保有5大国の間にも意見の違いがある。とくにイランに関しては、「平和利用ならば」と理解を示す途上国もある。IAEAのかじ取りは一筋縄ではいかない。
 一方、石油資源の枯渇が視野に入ってきた今、地球温暖化対策と相まって原子力エネルギーへの期待が高まっている。戦後一貫して平和利用に徹し、原発と核燃料サイクル事業に実績を持つ日本の代表として、天野氏には存在感を示してほしい。一部に聞こえる「指導力に欠ける」との批判をはね返す実行力も時には必要だ。
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 これに対し、東京新聞の社説は事情をやや正確に解説しています。

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天野事務局長 被爆国の願いを世界へ(東京新聞社説)

 「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長に初めて日本人が選ばれた。核兵器と関連技術の拡散を防ぎ、同時に原子力の平和利用を促進する強い指導力を期待する。
 当選したのはウィーン国際機関代表部の天野之弥大使。外務省で軍縮、核不拡散、原子力部門を歩んできた。十二月に就任する。
 ウィーンを舞台とした選挙戦では「広島、長崎を経験した日本から来た」と語り、日本は核の平和利用という政策を一貫して進めた「模範的な国だ」と訴えた。
 日本には長い歴史を持つ反核運動がある。政府も過去十五年間、国連総会で核廃絶決議案を提出してきた。唯一の被爆国からの事務局長選出だ。日本が進めてきた核不拡散と原子力の平和利用を両立する政策を、国際社会でさらに具体化させたい。
 オバマ米大統領が四月、プラハで「核なき世界」演説をし、米国とロシアが戦略兵器削減交渉を開始するなど核軍縮の動きが出てきた。しかしIAEAの現状を見ると、難問が山積している。
 イランは国連安保理やIAEAの要求を拒否して、ウラン濃縮活動を続けている。大統領選による混乱を受けて、次期政権は国内を結束させるためさらに対外強硬姿勢を強めて、核開発を加速化させる恐れもある。
 北朝鮮は今年四月、寧辺の核施設を担当していたIAEA監視要員を国外退去させた。
 IAEA事務局長には両国の核問題で、米国やロシア、中国など関係国の関与を見極めながら対応する政治力も必要となる。
 深刻なのは核を持つ国と持たない国の格差、対立だ。
 核を保有する先進国は不拡散体制の強化を優先するが、途上国は平和利用が目的なら核技術を移転すべきだと主張する。六月のIAEA理事会では、原発燃料となる低濃縮ウランを安定供給する「核燃料バンク」の創設が議題となったが、途上国側は自国の原子力発電の道が閉ざされると反対した。
 天野氏は選挙戦の信任投票で、当選ラインにやっと届く薄氷の勝利だった。「日本は米国寄りすぎる」とみなして反対票を投じた途上国もあるといわれる。支持基盤は万全とはいえないようだ。
 先進国と途上国の対立をどう調整していくか、天野氏には核廃絶という日本国民の願いを念頭に指導力を発揮してもらいたい。
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 IAEAのエルバラダイ現事務局長がノーベル平和賞を受賞したのは、アメリカの主張に反して「イラクに核兵器開発の兆しがない」という主張を引き下げなかったことが大きなポイントでしょう。もちろん、ノーベル平和賞が政治的なものであることは前回のエントリーでも述べた通りですが、それでも特定の国家に肩入れしなかったことは評価されるべきでしょう。果たして天野氏にその気概と力量があるでしょうか。さらに、日本政府やアメリカなど、天野氏を積極的に推した国々が、途上国の不信感を取り去る方向へIAEAが向かうことを許すでしょうか。

 このエントリーを書いていたら、こんなニュースが飛び込んできました。

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「武器輸出3原則」の緩和、経団連が提言
 日本経団連が、武器や武器関連技術の輸出を原則的に禁じている「武器輸出3原則」の緩和を求める提言をまとめることが3日、明らかになった。

 日本企業が、外国との武器の共同開発に参加できるよう求める内容で、年末に改定される「防衛計画の大綱」に反映させるよう、政府に働きかける。
 提言は、「(武器の)開発初期段階から参画することが、最先端装備を早期に取得し、防衛力を強化するために最も有効な方策」と主張している。
 「北朝鮮による弾道ミサイル発射など、北東アジアの安全保障環境は緊迫化している」状況を踏まえたものだ。武器輸出3原則について、「一律の禁止ではなく、個々のケースについて適切に対応する必要がある」と主張している。
 レーダーで捕捉されにくいステルス戦闘機などの開発費は巨額で、欧米などでは複数の国が共同で行うのが主流だ。だが、日本は、軍事関連技術の輸出が伴うため参加できず、最新鋭機の導入時期が遅れるケースも懸念されるという。また、国内では、防衛予算減で、軍事産業から撤退する企業が相次いでおり、新たなビジネス機会を求める産業界の意向も反映されている。
 武器輸出3原則を巡っては、自民党の防衛政策検討小委員会も6月に同様の提言をまとめている。
(2009年7月4日09時24分  読売新聞)
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 まさか、「通常兵器を進化させることが核廃絶につながる」などとは言わないでしょうね。経団連は、派遣切りと脱法行為のボスが会長になって以来、「正気か?」と思わせる発言が増えていますが、天野氏の当選と同じ日にこうした記事がでるところなど、この国のお粗末さを物語っているようで哀しくなります。

 広島・長崎の犠牲者が安らかに眠れる日が来ることがあるのでしょうか。

2009年7月 3日 (金)

本日の「怒」090703/外交の機密と国民の不信とは別問題だ/核「密約」問題に思う


 元外務事務次官の村田良平氏が、長い間議論になっていた「日米核密約」の存在を認めました。

 ご存じない方のために、簡単におさらいをしておきます。

 戦後、日本が占領下から独立する時に、日本はアメリカとの同盟を選択しました。結果として結ばれたものが日米安全保障条約(「安保」と略します)です。日本は冷戦体制の中でアメリカを中心とした「西側」の軍事同盟の中に組み込まれ、1954年には自衛隊も発足しました。

 こうした中で、1950年代から日本にはアメリカの艦船によって核兵器が常態的に持ち込まれていました。考えてみれば当たり前のことですが、核兵器を積んだアメリカの軍艦が日本に寄港するたびに核兵器を「下ろして」くるような面倒なことはできません。また、アメリカの戦略として、「核がどこにあるかわからない」ということが抑止力になる、というものがありましたから、どの艦船が核を積んでいるかということは決して明らかにされないのです。

 こうした「現状」を鑑み、60年の安保改定で、日米政府は、核兵器を積んだ米艦船が日本を通過したり寄港したりする時に核の搭載を認める、という「密約」を結びました。これはすでにアメリカの公文書で明らかになっている事実です。(それ以外でも、朝鮮半島で戦闘が起こったり危機的な状況になったときには、アメリカの戦闘機(爆撃機を含む)が日本の基地から「事前連絡なしに」戦闘地域に向かうことができる、という密約の存在も明らかになっています。)このように、日本はアメリカにとって「都合のよい」前線基地として機能してきたのです。

 さて、この「密約」は、歴代の内閣によって存在そのものを否定されてきました。日本は非核三原則「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」を国是としているので、当然、この密約は問題になるのです。しかし、アメリカの世界戦略の中に組み込まれた日本は、米軍の戦略構想に反する発言を行なうことはできませんでした。(ちなみに、非核三原則を貫いたことで故佐藤栄作元総理がノーベル平和賞を受賞したことは、まさにブラックジョークであり、ノーベル平和賞がいかに政治的なものであるかを物語っています。もちろん、当時から世界の外交官は日本に核が持ち込まれていることを「知って」いました。)

 状況が一変したのは、1981年にライシャワー元駐日大使が毎日新聞の記者に対し、核密約の存在を認める発言をしたことでした。この後、日本政府が密約を了解していた公文書などもみつかり、密約の存在は「確実な」ものになりました。とどめは、アメリカの公文書館が過去の外交文書を公開した中に、この密約文書そのものがあったことです。こうして、日米の密約は「歴史的な事実」になりました。

 これに対して、現在も日本政府はこの密約の存在そのものを認めていません。そうした中で、村田氏の発言は、日本側が密約を認めた最初のものになったのです。

 長い間アメリカの施政下にあり、今も軍事基地で苦しみ続けている沖縄の反応は、とてもまっすぐで当然のものです。

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[核密約]「同盟の嘘」を認めよ

 米軍が日本に核兵器を持ち込むようなことはない、としてきた政府答弁は嘘だったとする証言を元外務官僚が語りはじめた。

 1987年から89年まで外務事務次官を務めた村田良平氏(79)が、日本への米軍核搭載艦船の立ち入りを認める日米密約の存在を認めた。次官が外相に密約を伝達するのは「秘密の義務」だったことを明かした。

 この証言に対し、河村建夫官房長官は「存在しない」と否定、「(米側からの)事前協議がない以上は核持ち込みはない」との公式答弁を繰り返している。

 政府は否定しても、外務官僚のトップ経験者が認めた事実は重い。米政府がすでに密約文書を公開しており、政府が否定するほど嘘の上塗りに聞こえる。

 非核三原則で核兵器の持ち込みを禁じ、その必要がある場合には米側から事前協議の申し入れがあるはずだが、まだ協議がないため核持ち込みもない、と政府は説明してきた。しかし実際には核兵器を搭載した米艦船が日本に入港するのは「持ち込み」に当たらないとする密約があったという。

 米公開公文書やライシャワー元駐日大使、ジーン・ラロック退役海軍少将の証言で密約の存在が明らかになった。ほかにも朝鮮半島有事に事前協議なしに在日米軍基地から出撃でき、極東有事には沖縄へ核再持ち込みを認める密約もあったとされる。

 村田氏によると、どの首相に密約内容を伝えるかは、外務官僚が選別していた。

 政府は歴史の事実を覆い隠すべきではない。冷戦も終わり、政府が防衛政策の柱のひとつにした台湾海峡の緊張は解け、中台間の直接投資が解禁されている。国民に密約の経緯を説明し、虚偽答弁の非を認めることこそ、信頼を得る唯一の方法だ。

 外交・防衛政策のまやかしは沖縄基地問題に通底する。

 「地理上の利点を有していることが、沖縄に米軍が駐留する主な理由と考えられる」

 米軍基地が集中する理由を政府は防衛白書でそう説明している。これも疑わしい。

 90年代半ばに米兵暴行事件が起きた当時、米国防総省高官は日本が望むなら米軍を本土へ移転できる、と公言していた。しかし、政府は沖縄に基地を封印し続けてきた。

 米軍再編で小泉純一郎元首相は「海兵隊の県外移設を検討したが、どこも受け入れを拒否した」と発言した。

 無理を押すような防衛政策はいずれ立ち行かなくなる。

 衆院外務委員会の河野太郎委員長は「政府答弁だけを信じて議会運営できる状態でなくなった」として、村田氏を参考人招致して話を聞く方針を示している。政治の責任で真実を引き出し、官僚任せの外交防衛政策を正すべきときにある。

 核密約という冷戦期の厄介な問題は早く清算すべきだ。負の遺産を抱えていては、激動するアジア安保への健全なアプローチができない。

 嘘を抱えた同盟では、沖縄基地問題の取り組みもゆがめられてしまう。
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 ここには、「国民に嘘をつかない」という政府のあたりまえの姿勢が守られて来なかったことにたいする沖縄の怒りが見えます。これに対して、悲しくなるほどお粗末極まりないのが産経の社説です。

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【主張】核「密約」論議 問うべきは核の傘の信頼

 1960年の日米安全保障条約改定の際、「核兵器の持ち込みについて日米間に密約があった」と村田良平・元外務次官が発言し、「密約」論議が再燃している。
 一部メディアは政府に密約の確認を求めているが、今回の発言は村田氏が昨年秋に出版した自著で公表しており、新事実でも爆弾証言でもない。日本にとっていま重要なことは、北朝鮮の核開発などの新たな脅威に向き合う日米安保体制や拡大抑止(核の傘)のあり方を超党派で冷静に論じることではないか。
 村田氏らが指摘する密約とは、「核を積んだ米艦船の寄港、領海通過や米軍機の飛来は事前協議の対象外とする」との日米了解事項をさす。ライシャワー元駐日大使発言などを契機に、密約の有無をめぐる論議は過去に何度も蒸し返されてきた。「密約はない」と政府が否定するパターンも、これまでと変わらない。
 日本は第二次大戦後、日米安保条約体制(日米同盟)を通じた米国の「核の傘」に国家の安全を委ねてきた。冷戦時代には、核抑止を確かなものにすると同時に核廃絶の理念を両立させる必要もあった。核持ち込みをめぐる運用上の了解事項を非公開とした当時の判断は、そうした「政治の知恵」の一つでもあったはずだ。
 その理解なしに同じ論議を重ねるのは不毛と言わざるを得ない。それよりも、日本がいま直面する状況を考える必要がある。
 現在の北東アジア情勢は、北朝鮮の核・ミサイル開発の脅威に加えて、核軍拡を続ける中国の存在も見逃せない。日本や韓国にとって、21世紀はむしろ冷戦時代よりも危険な状況に近づいているともいえる。
 先の米韓首脳会談では、韓国側が「核の傘による安全の保障」の再確認を米国に求めて、首脳間で文書化された。これからも明らかなように、同盟国に対する米国の「核の傘」の信頼度が改めて問われる時代に入っているのだ。
 日本においても、敵基地攻撃能力や核保有の是非を含めた独自の抑止態勢のあり方とともに、日米同盟を通じた核抑止がどこまで機能しているかをきちんと論議する必要が高まっている。
 そうした論議を政治が怠っては国家と国民の安全は守れない。国会の場でも、過去を蒸し返すよりも現代の緊急課題に即した抑止論議を最優先してもらいたい。
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 ここには、「初めに政府ありき」という、産経お得意の意識が満載です。「お上のやることに不満を言うな」というこの傲慢な姿勢は、「政府が国民にとって信頼されるものになる」ための「民主主義の当たり前の原則」が踏みにじられています。

 日本が「経済一流、政治二流」と言われて久しいですが、40年間日本の政治を見てきたものからすると、「経済一流(それも疑わしいですが)、政治三流、外交論外」と言わざるを得ません。こんな悲しい状況を生んでいるのは、政府が国民の信頼を得る努力を完全に放棄し、「愚民政策」を続けてきたことも大きな原因でしょう。

 改めて問います。政府は何を見て外交を行なうべきなのか。これまでの外交政策を完全に転換しないと、これから先の日本は、国際社会の中で、今まで以上に「軽蔑される存在」になっていくでしょう。

2009年4月 6日 (月)

本日の「怒」090405/麻生首相と防衛省、軍国主義者たちの高笑い


 北朝鮮がミサイルを発射しました。大方の予想通り、日本は素通り。マスコミを総動員して大騒ぎした迎撃態勢は、結局PAC3の射程外をミサイルが通過したために「役立たず」で終わりました。昨日のエントリーでも書きましたが、この騒ぎはある意味で「意図された」ものです。たとえ迎撃したところで(できっこないですが)、北朝鮮が日本に向けてノドンを打ちまくるなどということがあるわけもないのに(瞬間的に体制を崩壊させられてしまうでしょう)、いたずらに危機感を煽った人たちと、それに「乗じて」意味のない報道を垂れ流し続けたマスコミの責任は重大です。

 さっそく、産經新聞が大喜びで社説を出しました。

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産経社説(090405)

 北朝鮮が「衛星打ち上げ」を名目に長距離弾道ミサイル発射を強行したのは、世界の平和と安全に対する重大な挑戦である。とりわけ日本列島の上空通過により日本国民に恐怖心を与えた。断じて許してはならない。
 日米韓など世界の主要国は、北の発射が「ミサイル関連のすべての活動停止」を定めた国連安保理決議違反だとして発射中止と自制を繰り返し求めてきた。オバマ米大統領も「国際社会の強力な対応が必要」と述べた。
 日米は新たな決議採択も視野に安保理の速やかな行動を促し、国際社会の総意として厳しい制裁措置を講じるよう、あらゆる外交努力を結集すべきである。
 また日米同盟を通じた日本の安全と防衛のあり方も問われる。日本政府は発射体の一部が領土・領海内に落下する事態に備えて、ミサイル防衛(MD)システムによる迎撃態勢をとった。
 北は今後も発射を続ける恐れがある。迎撃態勢の検証にとどまらず、自衛隊と米軍の連携に不可欠な集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈改定を急ぐべきだ。さらに、自衛権の発動として北のミサイル施設を先制破壊する能力を持つかどうかも含めて国政の場で積極的に論じる必要がある。
 ≪脅威を世界へ拡大≫
 北は1998年、2006年にも長距離ミサイルを発射し、今回は「テポドン2号」の改良型で射程8000キロ前後とされる。北が大陸間弾道ミサイル(ICBM)能力を持てば米本土の約半分と欧州、モスクワも射程に収まる。脅威は世界に広がり、核弾頭小型化に成功すれば米露にとっても戦略情勢が一変しかねない。
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 これぞまさに、必要以上に危機を叫んだ人たちの本心が現れています。この社説の主眼は、「北朝鮮、けしからん」ということではなく、「集団的自衛権行使を可能とする憲法解釈改定」と「自衛権の発動として北のミサイル施設を先制破壊する能力」の部分です。歴史的に、数多くの国を不要な戦争に巻き込んでいった集団的自衛権の行使だけでなく、なんと「先制攻撃」を主張しています。

 先制攻撃をする、ということは、北朝鮮まで飛行機を飛ばして爆撃するか、艦載の対地ミサイルを使うか、防衛的なミサイルだけでなく、「日本も地対地ミサイルを持て」という主張につながるか、でしょう。いずれも、専守防衛を旨とした自衛隊の本質を完全に改変するものです。

 今週末に行なわれるであろう世論調査の結果が恐ろしいと感じているのは、私だけではないでしょう。ミサイル狂想曲によって「防衛力をもっと!!」と感じてしまった人たちがどのような反応するのか・・・

 官邸や防衛省からの高笑いが聞こえてくるようです。

2009年4月 5日 (日)

本日の「怒」090404/こうやって煽るのか・・意図ありだからやるんだろうけど


 3日付のネット版夕刊フジに「とんでも記事」が載りました。見出しは「BKO砲炸裂!!槙原火だるま」(懐かしい!!!)なんていうデイリー・スポーツの見出しを彷彿とさせます。

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テポドン最悪シナリオ…ミサイル戦争で列島火の海!?

2009年4月3日(金)17時0分配信 夕刊フジ

 あす4日にも北朝鮮から飛んでくる長距離弾道ミサイル「テポドン2号」がもたらす被害について、最悪のシナリオが明らかになった。元韓国国防省北朝鮮情報分析官で拓植大国際開発研究所・客員研究員の高永●(吉を横に二つ)氏は「東北地方に落下する可能性はある」と警告。日本が迎撃した場合、北朝鮮からの報復攻撃で「10-20基のノドンが一斉に発射され、ミサイル戦争になる」とも。日本中が火の海になる可能性が出てきた。

 諜報の第一線で活動した経験のある高氏は、今回の発射について「北朝鮮が予告した空域にきちんと飛ばすかどうかがポイント」と語る。「北は食糧難や経済難だが、ミサイルや軍事技術は先進国レベル」(高氏)のため、テポドン2号の技術力も比較的高いとみられる。だが、発射実験の回数が少ないことから、「予定のコースを外れる可能性は十分にある。その場合は、日米が確実に海上で対応するはず」と高氏は言う。

 テポドン2号の全長は約40メートル。1段目のロケットが切り離されたとしても、約15メートルはあるとみられる。防衛省は2隻のイージス艦を日本海に展開しているが、迎撃した際、破片の飛散による被害が懸念されることから、イージス艦から海上配備型迎撃ミサイルを発射して片づける、と高氏は予想する。

 万が一イージス艦が撃ちもらし、東北地方に着弾した場合は「直径100メートルの範囲に甚大な被害が及ぶ」(高氏)。このため、防衛省は地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を秋田と岩手に配置して着弾前の迎撃を試みるが、破壊に成功しても「金属片が1-5キロから最大50キロまで飛散する」。東北地方の一部自治体はミサイルが飛来した場合、家の中に避難するよう呼びかける予定だが、「金属片の大きさは10センチから1メートルにも達する。1メートルなら屋根を突き破る」といい、家の中にいても安全ではない。

 さらに高氏は「迎撃後、北朝鮮が報復攻撃を仕掛けてくる可能性もある。中距離弾道ミサイル『ノドン』であれば、10-20基をすぐに一斉発射できる。1988年、イラン・イラク戦争でイラン側が放った77発のミサイルは北朝鮮製のスカッドミサイルで、このときと同じような『ミサイル戦争』になることも考えておかねばならない」と最悪の展開を予想する。

 事実、北朝鮮の官製メディアは2日夕、「重大報道」と銘打った異例のニュースを放送し、「日本が分別を失って迎撃行為に出るなら、わが人民軍は情け容赦なく、重要対象にも断固たる報復の打撃を加えるだろう」と警告した。

 ノドンの射程は約1000キロで日本全域をカバーする。ベルギーの国際研究機関「インターナショナル・クライシス・グループ」は先月末、実戦配備されたノドンは最大320基に上り、ノドン搭載用の核弾頭も開発されているとの報告書をまとめた。展開次第では日本中にノドンが降り注ぎ、列島が火の海になる恐れもある。
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 この「高永」なる人物、韓国の士官学校を出て将校を務めた経歴を持つバリバリの反北朝鮮強硬派のようですが、ためにする議論とはいえ、こうした「予測」を堂々と発表するところなど、「とんでも」資質は充分なようです。

 このような状況になる確率はどのくらいでしょうか・・・・もちろん、大変にいい加減なものですが、あまりに面白いネタなでちょっと考えてみましょう。失敗したテポドンが日本に飛来する確率は、どんなに最大に見積もっても、以下の確率を掛け合わしたものになります。

・北朝鮮のミサイルの発射実験が発射自体は成功してそのあとで失敗する率(飛ばなきゃやってきませんからね)
・失敗が爆発を起こさずブースターや本体が原形を保って飛行を続ける確率
・飛行可能な範囲の中の日本の面積の比率

 こんな確率は、3番目以外は計算不能ですが、明らかに極めて小さそうです。打ち上げの失敗は「日本まで飛来することが出来る程度の失敗」で「日本を飛び越さないほど重大な失敗」でなくてはなりません。もちろん、ブースターや本体が爆破してしまったらダメです。飛行可能な範囲の中での日本の国土の面積は、およそ0.2%だそうですが、これを他の要素の確率にかけると・・・少なくとも、宝くじの1等に当選するよりは遥かに低そうです。

(こんなことを大騒ぎするなら、例えば米軍の訓練によって起こる被害の可能性の方が、比べ物にならないくらい高いでしょう(実際に事故は起こっていますし)。テポドンは1発。日夜飛び交っている米軍機の数は、その数万倍をはるかに超えるでしょうし、現実問題として日本の上空を飛び回っているのですから。心配するのであれば、こちらを心配してほしいものです。)

 この記事の「とんでも度」は、記事が進むにつれて増大します。

 まずは「撃ち落としても破片が屋根を突き破る」。どうですか、この恐ろしさ。この記事を読んだ人は、今にでも金属片が空から降り注いでくる光景をイメージするでしょう。「大変だ、どうしよう」

 そして、迎撃に成功すれば、「北朝鮮から日本中にノドンが降り注ぎ、列島が火の海になる」のです。そうです。インターネットなんか見てる場合ではありませんよ!!

 この記事を読んで、「ソウルを火の海にする」というかつての北朝鮮のブラフを思い出した人も多いでしょう。この時は、北朝鮮側がはっきりと「ソウルを火の海にする」という表現を使って「脅し」ました。今回は、こうした具体的な具体的な表現ではなく「重要箇所に・・・」という言い回しです。それを、フジの記事が丁寧にも「日本が火の海になる」と説明して下さっているのです。ありがたくて涙が出てきますね。

 さて、フジはなぜこのように不安を煽るのでしょうか。それは、石原東京都知事の「日本の領海に落ちた方がいいんだ」という発言と同一線上にあります。「日本人は平和ぼけをしているから、軍事力の強化や核武装に否定的なのだ。平和ぼけをさまして、軍事力の強化がや憲法の改正が国民のコンセンサスになるのであれば、ミサイルが日本に落ちた方が良い」という背景がそこにはあります。「大変だ、ミサイルが飛んでくる。もっとしっかり防衛力を整備しなくちゃ。そもそも、北朝鮮なんかにばかにされないように、軍事力をもっと強くすべきだ。場合によっては北朝鮮に攻め込めるように、爆撃機や空母も必要だ。ミサイルももっと」と思う人を増やすことがその目的です。

 しかし・・・本当にミサイルが降って来たらどうしよう。心配になって来た(爆)

2009年4月 2日 (木)

本日の「怒」090402/抑止力になるか、それとも言い訳に使われるだけか・・イスラエル新政権の労働党の立場


 イスラエルの新内閣が発足しました。

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 【エルサレム=井上道夫】イスラエル国会(定数120)は3月31日深夜、右派政党リクードのネタニヤフ党首が提出した組閣名簿を賛成多数で承認し、ネタニヤフ氏を新首相とする連立内閣が発足した。パレスチナ政策で強硬姿勢をとる右派を軸としているため、中東和平でいっそうの停滞が懸念されている。
 ネタニヤフ氏は承認に先立つ国会演説で、パレスチナとの和平について言及。「イスラエルの脅威とならない権限すべてを与える合意が可能だ」と述べたが、パレスチナ国家樹立には具体的に言及しなかった。
 新政権はリクード(議席数27)のほか、右派の「イスラエル我が家」(同15)、シャス(同11)、「ユダヤの家」(同3)に左派労働党(同13)を加えた5党(計69議席)の連立。右派中心の連立に反発し、国会での承認では投票しない労働党議員も数人いた。ネタニヤフ氏は政権基盤を安定させるため、右派政党のユダヤ教連合(同5)との連立交渉を進めている。
 外相には、イスラエル国内のアラブ系住民の排斥を主張する「我が家」のリーベルマン党首、国防相には前政権から引き続き労働党のバラク党首が就任した。(朝日新聞)
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 ガザ地区でのパレスチナ人に対する虐殺行為が行なわれた直後の選挙で、カディマや労働党が当初の予想よりは善戦したものの、結局右派が勝利をおさめました。危機(たとえそれが演出されたものであったとしても)の後は右派が有利という、イスラエルの選挙の基本的な構造からいっても予想されたことですが、発足した政権に労働党が加わったことで、ネタニヤフ政権はさらなる暴走を起こすのではないかという危惧を持ってしまいます。

 歴史を振り返ってみると「選挙がある程度民主的に機能すれば、政権の本来の主張からはやりそうもないことの方が起こしやすい」という、面白い事実に気がつきます。アメリカが中国との国交正常化に動いたのは、そのタカ派的主張からは想像もつかなかったニクソン政権でのことです。戦前の日本でも、治安維持法が制定・施行されたのは、前後の軍人内閣(山本権兵衛、田中義一内閣)の時ではなく、憲政会の加藤高明内閣の時ですし、イスラエルでもキャンプデービット合意を主導したのは、右派リクードのペギン政権です。

 こうした例が多い背景には、さまざまな理由がありそうです。

 ひとつには、敵対する勢力よりも支持勢力の方が「がまんしやすい」という側面があるでしょう。イスラエルを例にとれば、労働党政権の時にアラブとの和平を目指せば、右派からの強い反発が避けられません。しかしリクード政権ならば、右派には一定の安心感ができるのです。こうしたことは、どの国でも(選挙によって政権交代がある国であれば)起こりえます。

 今年に入ってからのイスラエルによるパレスチナに対する大量虐殺は、リクードから分かれたカディマと労働党の連立政権下で行なわれました。カディマも労働党も、パレスチナに対して宥和的な政策をとると反発が大きくなることを恐れて、犯罪的とも言える虐殺行為を(周到な準備を行なった上で)実行しました。これも、政治的な力関係を考えると「対立する側の主張を取り入れる」行為とも言えるでしょう。

 さて、右派が勝利したイスラエルの総選挙ですが、強硬派の右派(イスラエル我が家、シャス)と労働党が、リクードを中心にしてヤジロベエのように左右にぶら下がる格好です。しかし、このヤジロベエ、中心はずっと右側にあります。大イスラエル主義を唱えるリクードやアラブ系の積極的な排除を目指す「イスラエル我が家」などの右派は、もともと政治的にはとても近いのです。その中に、なぜ労働党が入ったのか。述べて来たような「歴史の真実」から考えると、労働党が、他の政党が主導する極端な路線を免罪するための「おまじない」として取り込まれたのではないか、という気がしてならないのです。

 筋金入りの強硬派の首相、外相に主導されて、イスラエルがこれまで以上にパレスチナに対して抑圧的な政策をとることは、残念ながら見通せてしまいます。憎悪の連鎖がさらに連なり、真の中東和平への道のりが遠ざかったとしたら、労働党が政権に取り込まれたことがその一因となってしまう可能性があるのです。

2009年3月28日 (土)

本日の「怒」090328/IAEA事務局長選挙の「当然の結果」

 国際原子力機関(IAEA)で、エルバラダイ現事務局長の公認を決める選挙がありました。日本から天野之弥国際機関代表部大使が出馬し、南アフリカの候補との決選投票では、どちらの候補も必要数(理事国の3分の2)の支持を得ることができず、選挙がやり直しになりました。日本政府は、中曽根外務大臣を先頭に各国への働きかけを続けて来て、天野大使も有力視されていただけに「日本外交の痛い敗北」というスタンスの報道が見受けられます。

 この結果が意味するものはなんでしょうか。

 今日付の朝日新聞には、「唯一の被爆国として核廃絶に努力して来た日本にとって」という文章がありました。これを見て、「なるほど、日本が支持されないのは当たり前だな」と痛感しました。

 はたして、日本は本当に「核廃絶に努力して来た」のでしょうか。

 IAEA体制そのものが、IAEA発足当時の核保有国の「核独占」を固定化する目的を持って作られたこと、そして、日本がアメリカの戦略に従ってIAEA体制を支持して来たことは、昨年9月のエントリーで明らかにしました。(怒.怒.怒: 被爆者の叫びを忘れたのか・・・ダブルスタンダードを許容する日本の核外交)こうした結果が、主に第三世界に対して日本外交の不誠実さを知らしめたことが、今回の選挙の結果に示されています。日本の外交官がIEAEの事務局長になるなど、まさにブラックジョークなのです。

 日本が「非核三原則」というお題目を唱えながら、実際にはアメリカに対して核兵器の持ち込みを無制限に黙認し続けて来たことは、世界中の政府/国際機関にとって周知の事実です。言うこととやることが違い、核兵器の恐ろしさを知りながらこのような態度を取り続けている日本に、核の問題につて世界から支持を受けられると思う外務官僚のセンスを疑います。そして、朝日を始めとするマスコミが、こうした背景を報道することなく、政府の方針のPRに加担している現状を、とても恐ろしく思います。

2009年2月 4日 (水)

本日の「怒」090204/繰り返してほしくない歴史がまた・・・


 世界同時不況の様子が徐々に明らかになってきました。「100年に一度」が冗談では済まされない状況がはっきりしてきています。先行きや不況の状況について、エコノミストたちがさまざまに発言をしています。私は、その中にある種の「楽観」を感じてイライラしています。楽観視を感じる主なものは、「これまでと違って、セイフティーネットも充実しているし、各国が協調して対応する体制が整っている」というものです。

 しかし、アメリカ議会に提出された(下院ではすでに可決されている)景気対策法案には、公共事業などへのアメリカ製品以外の排除(バイ・アメリカン条項)が盛り込まれています。下院で可決された法案では対象品目を鉄に限っていましたが、上院では工業製品全体に対象を拡げた法案が審議中で、なんらかの修正が行なわれるにしても、バイ・アメリカン条項自体は可決されることになるでしょう。要するに、アメリカの議員は、1930年代の失敗(大恐慌の後、アメリカではやはりバイ・アメリカン法案が成立し、その後の保護主義の蔓延につながった)になんら学んでいないのです。

 歴史を振り返ると、大きな混乱期の後には必ず戦争がありました。戦争はさまざまな矛盾を覆い隠す、禁断の麻薬です。国内政治に矛盾を来した為政者は、必ずといってよいほど対外的な問題に国民の目を向けようとします。ヒトラーなどを例に挙げる必要もないでしょう。それが「戦争」という形をとらなくても、対外的な「敵」を作ることが、為政者の権力を守ることにつながることが多いのです。湾岸戦争やイラク戦争開始直後に、アメリカで大統領の支持率が9割になってしまうと言う現実。そこでは、戦争に反対するものは「非国民」とされ、排撃されます。寒い冬の北風の中で、1人で立ちすくんでいるのは寒いのでおしくらまんじゅうしている、みんなが寄り添って同じことをしたがる、そんな風景すら目に浮かびます。

 オバマ新大統領の発言は、現在のところ「多様化を認める社会」への道を示しています。しかし、すでにローマ教会は実質的にオバマ新大統領を否定する声明を出しました。アメリカ国内のプロテスタント原理主義者たちも、このまま黙っていることはないでしょう。経済政策がどのような効果を生み出すのかはまだわかりませんが、こうした声にゆさぶられて、アメリカがこれまでの「困ったときは軍需、戦争頼み」から転換できなくなるのではないか、という危惧を感じます。

 保護主義は連鎖します。これも歴史的な真実です。バイ・アメリカン条項は小さなひとつの出来事かもしれませんが、ここからどのように世界が「曲がって」行くのか、慎重に見守らなくてはなりません。

2009年2月 3日 (火)

本日の「怒」090203/外交を政権延命の道具に使うな・・危ない「麻生外交」


 外交通を自認している麻生首相が、ダボス会議で外交音痴ぶりを晒しました。漢字の読み間違えならば、単に「お馬鹿度」を示す「ジョーク」で済ませられるかもしれませんが、記者相手とはいえ、「ブレア」を「ブラウン」と言い間違えて気がつかないとは驚きました。マンガ、特に麻生首相の愛読書である「ゴルゴ13」には、よく著名人をもじった名前が登場しますが、本当にマンガで国際情勢を勉強しているのではないかと疑ってしまいます。「私はこれで首相を辞めました」の宇野元首相や、「サメの脳みそ」と揶揄された森元首相のような短命で何もしなかった総理とは違い、イギリスのみならず国際社会にさまざまなアピールを発したトニー・ブレアを知らないとは・・・

 それはさておき、ヒラリー・クリントン国務長官が最初の外遊先に日本を選んだということで話題になっています。共和党から民主党への政権交代によって、それまでの日本重視から中国重視に変化するのではないかとの「ジャパン・パッシング」が危惧されていましたが、「ひとまずそれは回避され、日米連携が確認される」という論調が見られます。

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クリントン長官 来週来日固まる 初外遊
2009年2月3日(火)8時0分配信 産経新聞

 【ワシントン=有元隆志】ヒラリー・クリントン米国務長官が来週、日本、韓国、中国の東アジア3カ国を歴訪することが2日固まった。米政府関係者が明らかにした。就任後、最初の外遊先として日本を選ぶことで、日米同盟重視の姿勢を強調し、北朝鮮の核問題での連携を確認する。

 米国務長官の初外遊はこれまで、欧州や中東が「定番」だったが、クリントン長官には東アジアを選ぶことで独自色を出したいとの狙いがあるとみられる。日米間ではブッシュ前政権末期に、北朝鮮へのテロ支援国家指定解除をめぐってあつれきが生じた。オバマ政権関係者からは「連携を確認することで早期に関係修復を図る必要がある」との声が出ていた。(後略)
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 しかし、ことはそんなに単純ではありません。人気を当てにして解散を行ないたかった麻生首相が、事実上解散を封じられる低支持率に喘いでいて政策の実行能力がないことなど、世界中の政治家が知っています。すぐにでも首相の座を追い払われてしまうであろう麻生首相と会うことの目的は、外交を政権浮揚の為に利用したい麻生首相なら要求を飲ませやすいからなのです。

 麻生首相は、すでにドルの安定化の為に約10兆円を、アジアの安定化の為に2兆円を支出する、と国際会議で「公約」しました。これは、もちろん麻生首相のポケットマネーでもなんでもなく、私たちが納めた税金です。リーダーシップのない麻生首相が「公約」しても、国会の承認も必要です。しかし、国際的には一国の首相の「約束」は、その国の公約として扱われてしまうのです。麻生首相が外交を利用したがっていることを見透かして、さまざまな要求が降り掛かってくるでしょう。

 クリントン国務長官が日本を最初の会談相手に選んだのは、単純に「日米同盟を確認する」ためではありません。オバマ政権の国際戦略から言うと、日本に対してこれまで以上の「努力」を求めることになるのです。オバマ政権が重視するアフガンだけでなく、ソマリアでも協力が求められるでしょうし、懸案になっている在日米軍の再編問題も、これまで以上の「成果」を求められることになるでしょう。

 問題は、取り上げたような純粋な「外交」問題だけでなく、ドル防衛の片棒を担がされることになるのではないか、ということです。ブッシュ政権の8年間で、オイルマネーのユーロシフトが進み、ドルの基軸通貨としての価値は減少しています。70兆円にも上る財政出動を決め、イラクとアフガンの戦費にあえぐオバマ政権にとって、ドル防衛の為であれば日本の財政赤字などは気にしないでしょう。どんな要求が飛び出してくるのか、注視することが必要です。

 さらに、ロシアのメドベージェフ大統領との会談も噂されています。油田開発でさんざん協力させられた挙げ句に放り出されたサハリンが会談の地になるようですが、成果がなにもない朝貢外交にならないことを祈るばかりです。

2009年1月29日 (木)

本日の「あれ?」090124/ニューズウィークの記事に思わず・・・


 タイム誌に比べると比較的リベラルなニューズウィークですが、それでもアメリカ賛美型の記事が目につきます。そのなかで、先週号の「アメリカンドリームの終焉(The End of Upward Mobility)」が目を引きました。記事をかいつまんでみると、「アメリカ社会の最大の問題であった人種差別が、階級格差という新しい課題に取って代わられた。所得格差が広がり、這い上がることが不可能な層が増えている」というもので、「オバマの評価は、自分以外のアメリカ人のために出世の階梯を作り直せるかどうかにかかっている」という文で締めくくられています。なるほど、表面的には、70年代以降の格差拡大を直視して、それに対する対応を促しているように読めます。

 しかし、私の目に留まったのは、次の文章でした。

「階級格差は、アメリカ人が建国以来いだき続けてきた理想に対する最大の脅威となるだろう」
「アメリカでは「誰でも」社会の最上位の地位に就く可能性があると信じることは、アメリカの伝統である楽観主義と政治制度の安定の基盤だ」

 ああ、変わっていないな、というのが率直な感想です。「建国以来いだき続けてきた理想」が差別社会を生み、国内的には解消する方向に向かっても、対外的にはアメリカの価値観が正しい、という押しつけを生んできた反省がありません。「誰でも」という発想が、弱者や少数者に対する非情な政策を生み出してきたことの検証がないのです。

 ニューズウィークなら、もう少し違う視点があるかと思ったのに、残念でした。

2009年1月21日 (水)

オバマ新大統領への期待と不安


 オバマ新大統領の就任式の模様が世界中に中継されました。アメリカの大統領の就任が、これほどの期待感を持って世界中に受け入れられたのは初めてのことではないかと思います。ブッシュ政権末期にクラッシュしたアメリカ型金融経済の問題だけでなく、世界中の多くの人たちがブッシュ政権時代の「負の部分」に閉塞感を感じていた証でもあるでしょう。新大統領の宣誓を見守る世界の人々の映像を見ながらある種の興奮を覚えたことは確かですが、一方で私はとても大きな不安を感じていることも間違いありません。アメリカ国民のみならず、世界の多くの人々がオバマ新大統領に期待していることは、まさに「変革」です。しかしこの言葉がもつインパクトの強さとは裏腹に、意味することはさまざまです。それぞれが持っている期待が失望に変わらないことを願うばかりです。

 オバマ新政権の顔ぶれを見ると、現実的対応を重視した人選が行なわれたことがわかります。若いオバマ氏が、経験と実績を備えた閣僚をセレクトしたこと、異例とも言われる時期に人選を進めたことが、オバマ新大統領の現状に対する危機感を表していると思います。確かに、現実的な問題処理能力はとても高いと思われる人選で、「お友達内閣」「素人閣僚」を標榜して恥じないどこかの国の閣僚とは雲泥の差があります。しかし、その「現実的対応」が、「変革」の内容を規定してしまうことを危惧せざるを得ません。

 外交政策についての危惧は、12月3日のエントリー(http://do-do-do.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-1736.html)で取り上げました。イラクからは撤退の方針を貫くことができそうですが、アフガンには「増派する」というのがオバマ新大統領の公約です。ブッシュ政権が掲げた「テロとの闘い」の無益さがはっきりしている以上、アフガンへの増派も慎重にすべきだと思います。それこそが「変革」であり、「兵力の変更」に終わってしまっては、イスラム圏の人々が望む「変革」からはほど遠いものになってしまうでしょう。

 必要なことが「価値観の変革」であることは、何度も述べてきました。アメリカが黒人に対する差別を克服しつつあるように、命や生活に対する「差別」を克服することこそ、オバマ政権に求められる「真の変革」であるはずです。アメリカ人1人の命も、イラクやアフガン、そしてパレスチナの地に住む人々の命の重さも同じものです。オバマ政権の船出が、アメリカ人が心からそのように思えるようになるための第一歩であってほしいと願っています。

 のですが・・・現状を見ていると、なかなか不安はなくなりません。オバマ新大統領の資質を疑問視しているのではなく、新政権に与えられるであろう「ハネムーン」が、今回は非常に短期間になるだろうと思うからです。経済の混乱は、政権の成果をすぐに求める層が爆発的に広がっている状況です。3月にはGMなどを救済するかどうかを決めなくてはなりません。経済政策の目玉に据える「グリーン・ニューディール」政策は、具体化して効果が出るまでにはしばらく時間がかかるでしょう。金融機関の規制も、規制に反対する勢力を駆逐できる強さは感じられませんし、これまでもそうであったように、「喉元を過ぎて金儲けに走る」意識を「変革」することは、並大抵のことではありません。

 外交でも、最初から難問が待ち構えています。イスラエルは、停戦条件に縛られることを恐れて一方的な停戦を宣言しましたが、「大統領はひとりだ」という理由で今回のイスラエルの行為についてコメントを避けて来たオバマ新大統領にとって、イスラエルに対する態度は、ある意味で「踏み絵」になる危険性があります。政権内部には、アラブに対して宥和的であるものも、強硬なイスラエルシンパも抱えています。政権のスタッフがそれぞれに強力であるが故に、「オバマ色」がどの程度発揮できるのかはわかりません。イラクからの撤退も、それが単に「アフガンに注力を注ぐための」戦略的なものであるならば、イスラム諸国の反発を受けることは明らかです。

 期待が大きいだけに、躓いたときの失望も大きいはずです。時間的に余裕がない中で、厳しい選択を迫られる場面が次々とやってくるであろうオバマ新政権に、期待と不安を感じるのは、そのためです。

2009年1月20日 (火)

暗黒の8年間への葬送/ブッシュ政権の終演


 今日、アメリカでオバマ新大統領が就任します。実は、世界が望んでいるほどの「期待」を、残念ながら私は持ち合わせていないのですが、ひとつだけ確実なことは、悪夢のブッシュ政権が歴史の舞台から退場する、という事実です。

 ブッシュ政権が繰り広げて来た外交の失態は、昨年10月のエントリー(http://do-do-do.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-965c.html)で詳しく述べました。なによりも、ブッシュ政権が世界中にばらまいた憎悪の種は、これからの国際社会の中でもさまざまな悪影響が残るでしょう。イスラエルが「駆け込み」でパレスチナ人の虐殺を行なったことも、ブッシュ政権がもたらしたものの象徴として語り継がれることになると思います。退任の挨拶で「あれ(911テロ)以来、アメリカ本土は攻撃を受けていない(だから、自分が行なった外交政策は正しかったのだ)」と強がってみせましたが、経済的にも身体的にも「安全な」ブッシュ前大統領本人にとっては、自分が行なった8年間の統治は「成功だった」と思っているのかもしれません。

 外交以外でも、ブッシュ政権はさまざまな害毒を垂れ流し続けました。経済問題についてはたびたび取り上げていますので繰り返しませんが、環境政策、福祉政策などでも、「新自由主義」の面目躍如たる成果を誇っています。ブッシュ前大統領自身は自らを「Compassionate Conservatism」と名乗っていましたが、それがクリントン政権と違って赤字を垂れ流した(多くは戦費)自身の政策への言い訳(小さな政府を求める保守層に対しての)であることは明白で、実際には福祉削減、開発重視、倫理重視の「思いやりのない」政策の積み重ねであったのは明らかです。

 よく言われることは、環境問題への無関心です。京都議定書からの離脱は、二酸化炭素の排出量が最も多い国としての自覚もなにもないことを示し、アラスカの油田開発は、自国ですら環境破壊を恐れない徹底したエネルギー政策を見せつけました。原発の新設を再開し、世界の重電機メーカーを喜ばせ、代替エネルギーとしてバイオを活用することを唱えて穀物メジャーを活気づけました。そのために多くの途上国で食料高騰による食料不足が起こっても、こうした国々への援助には消極的でした。

 環境問題に対する無関心は、経済発展至上主義にあります。それは、法人税の減税や医療福祉制度の後退などにも現れました。また、弱者や少数者に対しては差別意識を隠そうともせず、捜査方法の拡充(礼状なき盗聴捜査など)を行い、テロ後の「善悪二元論」で危機意識を煽って、白人社会にアピールしました。

 ある意味で、レーガン以来のアメリカの主流になった政策の「仕上げ」をブッシュ政権は行なったのですが、それがどのような結果を生んだかは、「歴史が評価を下す」でしょう。三度目の亡霊が登場しないことを願って、葬送の辞を送りたいと思います。

本日の「怒」080120/余計なお世話だろう・・・まだ「アメリカ式」を賛美するのか


 昨年暮れの米「タイムズ」誌に、「中国の消費者は世界を救わない」という記事が載りました。内容は、「中国では中産階級層が消費より貯蓄に熱心である。世界不況の中でどの国も内需を拡大しようとしているのに、中国の国民は貯蓄ばかり夢中で、世界経済の再活性化に役に立たない」というものでした。一方、本日付の朝日新聞に、ボーグルソン財務長官の発言として「中国の国民が貯蓄に熱心なあまり、世界不況に陥った」と言わんばかりの発言を紹介していましたが、ある程度以上の年齢層には「またか」と感じられる発言ですね。

 その昔(ベトナム戦争直後だったと思いますが)、過剰消費と財政・貿易の「双子の赤字」に悩んだ米国は、貯蓄性向の高い日本国民を批判して「消費や投資に日本もお金を使わなくては経済がいびつになる」と盛んに攻撃を加えてきました。直接的には、日本の製品をアメリカが大量に消費する一方で、日本人がアメリカの製品をあまり買わないことに「腹を立てて」のものですが、「アメリカのように、借金してでもお金を使え」ともとれるアメリカ発のさまざまな発言に、多くの日本人が眉をひそめたものです。

 こうした不遜な態度は、「アメリカが正しい」という発想に裏打ちされたものですが、これまでも繰り返されてきました。しかし、この期に及んで、「経済がこけたのは消費に熱心でない国が悪い」とばかりの発言を財務長官がするというところに、改めて驚きと悲しさを感じました。

 今日はオバマ大統領の就任式です。初のアフリカ系大統領が、こうした「アメリカだけが正しい」という意識を「変革」できるのかどうか、これからが大切な時間になりそうです。

2009年1月13日 (火)

本日の「怒」090111/アメリカの傲慢はブッシュ政権だけではないらしい


 こんなニュースを目にしました。

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疑い晴れても搭乗拒否された9人のイスラム人
2009年1月12日(月)11時1分配信 ココログニュース

9.11同時多発テロ以降、旅客機ハイジャック防止のため世界中の空港で塔乗時検査が強化され厳しくなった。安全のためには当然のことであるが、欧米ではアラブ系の人に対して差別的な「やりすぎた」対応をする職員が多く問題になっているほか、一般の乗客がアラブ人を見てテロリストではないかと空港警察に訴えるケースも後を絶たず人種差別問題にまで発展している。
1月1日、アメリカのワシントンDCからフロリダ州オーランドへ向かうエアトラン航空便に搭乗した、イスラム教徒の家族づれも酷い目にあった。離陸前に機内で「不審な会話」をしたとほかの乗客が訴え、3人の子供を含む家族9人全員が降ろされてしまったのだ。連邦捜査局が事情聴取をしたところ疑いはすぐに晴れたのだが、同航空会社は別便に搭乗させることも拒否したのだという。
ワシトンポストには「不幸なことだけど、9.11以降世界は変わってしまったから」「嘆かわしいことだ」というコメントのほか、「あの独特なイスラムの衣装を着るからいけないのでは?」という見解を示すものや、「全てのイスラムはエアトラン航空をボイコットするべきだ」「エアポート・セキュリティーはちゃんと仕事をしている。乗客がテロリストだと訴えるだなんておこがましい」など様々な意見が寄せられていた。
乗客の訴えをうのみにし空港警察に引き渡し、疑いが晴れても返金もせずに搭乗拒否し続けた航空会社がアメリカに存在するのだと思うと、空恐ろしい。後日エアトラン航空は家族に謝罪をしたが、これは非難の声が相次いだのを受けての謝罪のような印象を受ける。表面に出ないだけで、過去にも同様のケースがあるのでは、と勘ぐってしまうほどだ。イスラムに対するアメリカ人の偏見は、私たちが想像する以上かもしれない。このようなケースが続くと最悪デモや暴動に発展しそうだと危惧するのは、考えすぎだろうか。
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 911の衝撃があまりに強かったのでしょうか、アメリカ社会が冷静な判断力を失ってからもう大分経ちますが、まだまだこうしたニュースがときどき飛び込んできます。確かに、瞬時に3000人もの死者を出したテロの残虐性は、歴史上に残るものだと思います。しかしながら、そこに至るまでの経緯、さらにその後の状況は、「テロと闘う」という名の下の国家テロに他なりません。一度に3000人は殺していないかもしれませんが、アメリカ軍がイラクやアフガンで殺した民衆は、桁が違います。

 まもなくオバマ新大統領の就任式ですが、アメリカは変わることができるのでしょうか。

2009年1月10日 (土)

本日の「怒」090110/実効ある行動が求められている・・イスラエルの暴走は止まらない

 新聞やテレビがまだイスラエルの虐殺行為を積極的に報道していなかった時点で、インターネットではすでにその行為の残虐性を伝える速報がありました。それについては07日のエントリーで書いた通りです。さすがに隠し通さなくなったのか、イスラエル軍の残虐行為が少しずつ明らかになってきました。非難のために人を集めてそこを爆撃する、避難民のバスを狙い撃ちする、救急車を狙って砲撃を繰り返す、などの、明らかに民間人の虐殺を意図した攻撃が繰り返されています。まさに「この際だから1人でも多くのバレスチな人を殺しておこう」という意図すら感じられて寒気を催します。

 少し古いのですが、2004年9月9日にあるところに書いた日記を引っ張り出してみます。

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力の支配がもたらすもの
 
 ロシアでまた悲劇が起きた。おろかな人類は、暴力の連鎖を断ち切ることができないのだろうか。私は、パレスチナ問題やチェチェン、イラクなどについて繰り返し危機感を表明してきた。現実には、世界はより危険な方向に向かって一直線に進んでいる。
 
 力を持つものが持たないものを恐怖で支配しようとすることは、人類の長い歴史の中で権力者の「当然の権利」として容認されてきた。支配者は、自らの支配をより堅牢なものにするために、より多くのもの(民衆、他国、他民族)に対して自らの力を誇示し、従わないものに恐怖を与えようとする。アメリカの軍事力がまさにそうであり、ソ連~ロシアの歴史が物語っているものも、この歴史的な「真理」を証明している。
 
 恐怖による支配は、「テロリズム」として現れる。「テロ」というと、パレスチナやチェチェンをイメージされることが多いが、その本質は「国家テロ」に顕著に表れる。アメリカによる国家テロであるイラク侵略の結果、刑務所などで民衆の弾圧、虐待が日常的に行われるようになったことが、このことを証明している。国家という看板を背負った兵士たちは、「何をやっても良いのだ」と考えるようになる。ベトナムでも、旧ユーゴでも同じことが繰り返されてきたのだ。
 
 ロシアは、ソ連時代以上の強行な姿勢で、周辺諸国を従わせようとしている。特にチェチェンに対して執拗に繰り返される残虐行為は、今や完全に独裁者として君臨するプーチン政権の本質をよく表している。ロシアでは政府に批判的な報道は完全に弾圧され、もはや自由な意見表明はできない。こうした姿勢は、ブッシュ率いるアメリカと対を成して、世界を恐怖の底へと導いていく。
 
 暴力で弾圧された側は、その恐怖を恨みに転化して新たな暴力を生み出していく。その弾圧が理不尽なものであればあるほど、力の差が大きければ大きいほど、新たな暴力はより先鋭化していくのである。
 
 暴力の連鎖を断ち切ることは、強者にしかできない。抑圧され虐待されている弱者は、暴力にしか道はないのだ。しかし現実的には、強者であるアメリカやロシアがその強権的発想を改めることは望むべくもない。特に、「自国の利益のためなら何をやっても許される」という発想に凝り固まったアメリカが存在する限り、暴力の連鎖が切れることはない。考えたくはないが、仮に、ブッシュが再選したら、さらに暗黒の四年間が待っているだろう。
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 イスラエルが行なっている行為は、まさに「国家テロ」です。長い間の経済封鎖で疲弊したパレスチナ人社会、特にガザ地区の経済力/軍事力は、アメリカや世界各地のユダヤ人社会から制約なく資金や兵器をかき集められるイスラエルとは比べられるものではありません。

 このブログをお読みの皆さんにもう一度思い起こしていただきたいのは、イスラエルとパレスチナの歴史です。非常におおざっぱな言い方をすれば、イスラエルという国家は「ユダヤ教の教義に則れば、イスラエルの地やユダヤ人のものである」という思想(シオニズム)に則って、その地に住んでいたパレスチナ人を「放逐して」作られました。その際には、イギリスやアメリカのユダヤ人社会が強力に後押しをしました。パレスチナ/イスラエルの問題の根源はここにあります。

 イスラエル側の主張は、「パレスチナの地はもともと(2000年前)ユダヤ人のものだ。それを追い出されて長い間放浪を余儀なくされていた。だから、イスラエルを作る権利を持っている」というものです。これを他の地域に例えてみればどうなるのか、想像してみて下さい。現状の国家・国境など何も意味を持たなくなります。日本に例えて言えば、アイヌ人が関東以北の(場合によっては本州全部か?)土地を要求し、そこに住む日本人を追い出した、と思えばいいでしょう。数百年にわたってかの地に住み続けて来たパレスチナ人は、このような主張によって土地を奪われ(殺され)たのです。

 パレスチナがイスラエルに対して抵抗運動をするのは、ある意味で「当たり前」のことだと思います。その方法には是非があるでしょう。しかし、着々と既成事実を積み上げていくイスラエルを目の当たりにしたパレスチナ人の焦り、怒りはいかばかりかと思います。

 いわゆる「中東戦争」では、アラブ側から攻撃をしかけたことも多く、限られたタームの中での戦闘行為を問題にする限り、「どっちもどっち」で片付いてしまいます。しかし、ことの本質はそこにあるのではありません。「失われたパレスチナ人の権利をどのように回復し、守るか」ということが、国際社会に求められているのです。

 4年前、ブッシュは再選され、「さらなる暗黒の4年間」が続きました。8年前にブッシュが当選した時に「テロの時代が始まる」という日記を書いたのですが、はっきりいって、ここまで世界が酷い有様を呈するとは思っていませんでした。ロシアでは、大統領の任期を延長することで、プーチン首相による独裁体制を強化する準備が整いました。資源を武器に周辺諸国に対する支配力を強め、欧州に対しての存在感も増して来たロシアは、3年後にプーチン首相が大統領に返り咲いてその体制を永遠にしようとするでしょう。アメリカでは、オバマ新政権が価値観の「チェンジ」に失敗すれば、4年後に3人目のブッシュ大統領が登場するという「悪夢」が再現される可能性もあります。アフリカなどで資源の確保を着々と進めている中国が、その経済力を増大させて世界に対する影響力をさらに増すことも現実味を帯びてきました。強大化するインドに対して、パキスタンが何もせずにいることは考えられません。

 アメリカがイスラエルを支援する、それに対抗してロシアがアラブ側を支持する、という構造を抱えたままでは、パレスチナ問題は解決しません。上記のように、冷戦時代に比べて遥かに複雑化した国際関係の中で、パレスチナの民が翻弄され続けることを危惧せざるを得ません。

 自分では何もできないもどかしさがありますが、世界経済のクラッシュが、新たな価値観の創造に向かうきっかけとなってくれることを望むばかりです。

2009年1月 7日 (水)

本日の「怒」090107/これは民族浄化ではないのか

 イスラエルの暴走が止まりません。地上部隊の全面展開を行なったイスラエルは、子どもを含む民間人に対しても区別のない虐殺を始めました。避難所に向かうバスを砲撃し、病院に向かう車列に銃撃を加え、子どもたちが非難している施設に爆撃を加えています。「1人のイスラエル人が殺されたら20人のアラブ人を殺す」と公言して来た強硬派が、全イスラエルを支配しているかのようです。イスラエルは、「ハマスのミサイル基地を破壊している」と発表し、米政府や日本のマスコミもそれに沿った報道をしていますが、現地からはインターネットを通じて生々しい報告が上がっています。

http://news.www.infoseek.co.jp/special/j-is/spiral01_004.html

 そもそも、土地を奪われ、封鎖され、食料供給もままならない状態に置かれていたガザ地区のパレスチナ人に対し、生存が危うくなるほどの圧力をかけ続けていたイスラエルが、ハマスからの「実効のない」攻撃に対して、無差別虐殺を繰り広げているのが現状です。国際機関やジャーナリストのガザへの入国を認めず、目と耳を封じた状態で行動を起こしていることから、「目を塞がなければならないこと」をやっていることがわかります。

 国際社会は、改めてイスラエルに対して圧力をかけるべきです。これまでも国連の安保理決議も無視して既成事実を積み上げて来たイスラエルは、「何をやっても結局は勝てば良い」と考えていることは明らかです。「歴史を踏まえて考えろ」とは言いません。今すぐに行動を起こさないと、パレスチナ人の惨禍は収まらないのです。

2009年1月 4日 (日)

本日の「怒」090104/どこまで傲慢なのか、ブッシュ大統領の最後のアピール

 イスラエルの暴走が止まりません。昨日は、ついに地上からの攻撃が開始されました。地上兵力の全面展開という最悪のストーリーに向かって行きそうな気配がしています。これに対して、ブッシュ大統領はイスラエルに対して無条件全面支持の声明を発表しました。「悪いのはハマスだ。市民に犠牲者が出たことは残念だが、イスラエルの行動は完全に正しい」という内容のものです。

 力を持つものが正しい、という、アメリカ人の血に脈々と継がれて来た西部の開拓魂は、ブッシュ政権やそれを支えた「新保守主義」信奉者たちの中にまだ健在です。土地を奪われて叩き出されたパレスチナの民の叫びは、土地を手に入れたものが正義、という、アメリカ人の意識には何も訴えないのでしょうか。確かに、ハマス流の直接的な行動が正しいとは思えませんが、それを支持せざるを得ないところまで追いつめられているガザ地区のパレスチナ人の意識を理解しようとしないアメリカが、ブッシュ大統領が言うような「建設的な和平への道のり」を作り出せるはずがありません。力づくで押さえ込んで、「押さえ込まれた現状を納得すれば和平に応じても良い」というやり方は(もちろんアメリカのお得意のものですが)、もう過去のものにしてほしいのです。こうした手法が上手くいかないこと、そして憎悪の連鎖を産んでしまうことを、アメリカはベトナムでも、イラクでも、アフガニスタンでも、また中米でも学んだはずです。

 一方、歴史的に「アラブ寄り」の外交を展開して来たフランスが、イスラエルびいきを公言するサルコジ大統領の元で和平工作に動き始めました。就任当時の人気に(そのバブリーな生活態度などで)かげりがみえるサルコジ大統領としては、フランス社会に根強く存在する「アメリカ嫌い」「親アラブ」の感情に訴えつつ、イスラエルがのめる現実的な落としどころを探ろうとしているのでしょう。パレスチナの主流派と良好な関係を維持して来たフランス政府が、果たしてハマスに対して影響力を行使しうる外交チャンネルを構築することができるかどうかは不明ですが、少なくともイスラエルがなにをやろうとも、その応援団から降りる気がないアメリカよりも可能性はあるでしょう。

 パレスチナの民が「普通の暮らし」ができる日が、そしてイスラエルの民衆が「真の意味で安心して生活がおくれる」日が、一日も早くやってきてほしいと願わずにはいられません。

2008年12月29日 (月)

本日の「怒」082129/いくらなんでも・・・イスラエルの暴走を憂う


 イスラエルが西岸地区230カ所を空爆し、300人近くの死者と1000人の負傷者を出した、という報道がありました。各紙の論調にあるように、来年二月のイスラエル総選挙対策としての強攻策が見え見えで、アメリカの権力不在の時期を選んだ、言い訳のしようがない大暴挙です。「毎日ミサイルが飛んでくる身にもなってみろ」というのが、在日イスラエル大使の言い分のようですが、きちんと対策をして1人の死者も出していない攻撃に対して(それも、ハマス側の良い分に従えば、11月からのイスラエル側の侵入テロ/ハマスの拠点に対する攻撃に対抗してのもの)、一般人を大規模に巻き込んだ虐殺は、許されるものではありません。国際社会がどのような反応をするのかまだハッキリしたことはわかりませんが、イスラエル側が未曾有の経済混乱期を狙ったものだとすれば、その思惑に乗ってしまうような恥ずかしい反応が示されないように祈るばかりです。

 パレスチナ問題をリアルに感じている世代は、当事者国以外ではもう少数になってしまったかもしれません。中東戦争、石油危機などの体験をしていない人たちは、「単なる地域紛争」としか感じていないかもしれません。しかし、土地を取り上げられて追い出され虐殺されて来たパレスチナ人の恨みは、武力で解決できるものではありません。この攻撃が、大規模な地上兵力の投入につながるとしたら、イスラエルが再び「パレスチナ人と土地を浄化する」という方向に向かってしまうのではないかという危機感すら覚えます。

 世界中に憎悪をばらまいたブッシュ政権の残虐性と欺瞞を、国際社会やある程度の米国人までもがようやく気がつき始めたこの時期に起こった憎しみの連鎖をさらに拡げようとせんばかりのこの行動に、得体の知れない「裏」の存在を感じて恐怖してしまいます。平和を恐れるものたちの存在・・・さまざまな形で語られて来た「得体の知れない」社会の存在が、あまりのタイミングの良さにリアルに思えて来てしまいます。「この経済危機を乗り越えることができる唯一の方法は・・・戦争だ・・・」という、怪しげな声が聞こえてくるようです。

2008年12月 3日 (水)

これで大胆な「チェンジ」が期待できるだろうか/オバマ新政権の閣僚名簿から読めること


 オバマ次期米大統領が、経済関係閣僚に続いて、外交防衛政策を担うメンバーを発表しました。目玉は、クリントン国務長官とゲーツ国防長官です。読売、産経両紙は、クリントン氏の対日外交などへの注文を付しながらも、社説で評価と期待を表明しています。これまでブッシュ政権が行なって来た「テロとの闘い」を継続すること、アメリカの指導力を回復させることを期待している内容です。

(そうした意味で、「国家安全保障は超党派で、という米国の伝統を尊重する」と語ったオバマ氏の現実感覚は評価できる。とくにイラクでは、政治がようやく安定し始めたばかりだ。米軍の早期撤退公約にこだわって、これまでの成果を無にすることがないように柔軟な対応を注文しておきたい。/産経社説から)
(来年1月20日にスタートするオバマ次期政権は、これらの新布陣で、金融危機でも、イラクとアフガニスタンの二つの戦争、北朝鮮やイランの核問題でも、目に見える成果を出さねばならない。ゲーツ国防長官、ジョーンズ大統領補佐官については、手堅い人事と言える。オバマ氏の外交・安全保障面での「経験不足」を補う狙いもあろう。/読売社説から)

 毎日社説も期待を表明していますが、スタンスはかなり違います。

(クリントン氏の起用発表にあたりオバマ氏は重要課題として、イランや北朝鮮への核兵器拡散防止、イスラエルとパレスチナの永続的和平の追求、国際機関の強化などを挙げた。北朝鮮核問題を重視する姿勢は歓迎できる。北朝鮮の核・ミサイルや拉致の脅威にさらされる同盟国・日本の実情を理解してほしい。
 国際テロの根源ともいわれながら、ほとんど顧みられないパレスチナ問題に配慮した点も評価したい。クリントン氏は大統領夫人時代、パレスチナ独立を支持する発言をしたが、上院議員出馬を境にイスラエル寄りの姿勢を強め、イランにも厳しい態度を打ち出すようになった。
 こと中東問題では両者の意見は異なるが、ブッシュ政権のような「イスラエル一辺倒」の姿勢は反米感情を増幅し、イスラエルにも累が及びかねない。中東和平を「鬼門」とせず、テロ抑止の幅広い観点から賢明に対応すべきである。
 オバマ氏がイラクやアフガン情勢の打開に意欲を持っているのは、国家安全保障問題担当大統領補佐官にジョーンズ元北大西洋条約機構(NATO)最高司令官を起用したことでもうかがえる。「テロとの戦争」を始めたアフガンで、その「戦争」終結をめざす考え方だが、米軍増派で今以上の泥沼に踏み込まぬよう軍事作戦の限界も認識すべきだ。/毎日社説から)

 毎日社説にあるように、クリントン元大統領が(特に政権末期に)力を入れた中東和平へのアプローチ、特に、中東問題の根っこであるパレスチナ問題に対して、イスラエルの利益保持だけに関心があったブッシュ政権との違いが出てくることは、十分に期待できると思います。さらに、イラクからの撤退についても、ブッシュ政権が持っていたようなトラウマやプライドから解放されて、対応に柔軟性がでてくることもあり得るでしょう。その点については、期待できるかもしれません。

 まず私が「おや」と思ったのは、オバマ新大統領自身の発言です。「米国が指導力を発揮し、21世紀の課題に取り組む新たな時代が来るべきだ」確かに、アメリカ人は(特に変革期には)「ヒーロー」となる、強い指導力を持った指導者を求めます。特に、今回のような選挙戦を行なったオバマ氏は、国民から「変化を起こしてくれるスーパーマン」を期待されていることははっきりしています。しかし、それが「アメリカが世界の指導者である」という意識に直結してしまうと、ことはそう単純ではありません。確かに、アメリカは世界最大の経済力と軍事力を持った国家です。だからといって、「アメリカが一番」という、これまでのアメリカ人が、そして米国の政権が持ち続けて来た意識をそのまま引き継いでほしくないのです。先月書いたように、アメリカが多様な価値観を認めるようになることが「変革」だと思うのです。単に、「世界にテロをばらまいてもアメリカの利益を守る」「環境破壊をしようがアメリカ経済を大きくする」「金が価値観を決める最大のものである」というブッシュ政権の方針からの「変革」では、時代の転換点にある現在の世界を「リードする」ことなどできないでしょう。

 そうした点で、今回の外交安保チームにはかなりの不安を感じます。確かに、現実的な布陣なのかもしれません。ファーストレディー時代に培った人脈と経験は、クリントン氏の国務長官というポストには役立つものでしょう。穏健派のゲーツ国防長官なら、イラクからの撤退に向けたプログラムの作成に力を発揮するに違いありません。ライス新国連大使は、国連を徹底的に見下していたブッシュ政権の政策を転換するために力を注ぐでしょう。しかし、いずれも「現在の状況を軟着陸させる」ために必要な人事、という感じがしてならないのです。極めつけは、国家安全保障担当大統領補佐官のジョーンズ氏でしょう。昨年来、イラク問題が話題になると登場するこの人物、イラク侵略に対しては否定的ですが、アフガンについては徹底的な介入を主張しています。こうした人選は、もちろん「アフガン重視」というオバマ氏の路線から見えてくるものではありますが、アフガンで軍事力を誇って介入を強化すれば、また新たな憎悪の連鎖を産んでしまうのではないか、という恐れが拭えません。

 経済的には、中国やインドが人口を背景にした消費地や欧米の下請け工場にとどまらず独自の力を発揮し出すと、膨張を続けるユーロ圏やオイルマネーのはざまで、ドルの「一人勝ち」状態は確実に変化します。そうなったとき、またもや軍事力や軍事力を背景にした外交で自国の利益をごり押しするアメリカになってしまうのではないか、と危惧するのです。オバマ氏に「変革」してほしいことは、この「アメリカ至上主義」そのものなのです。


2008年11月28日 (金)

本日の「哀」081128/いつになったら終わりが来るのか・・・拡散されたテロ


 ムンバイでまた無惨なテロが発生しました。主に欧米人を狙ったと思われるこのテロですが、手口から外国人、アルカイーダとの関連がささやかれています。また、とうとう血が流されました。

 8年前にブッシュ政権が誕生した時に「テロの時代がやってくる」と予告したのですが、世界中にテロの温床をばらまいたブッシュ政権が終焉を迎えても、一度撒かれた憎悪の連鎖は、すぐにたちきれるようなものではないようです。経済問題でとりあえずは手一杯になると思われるオバマ新政権ですが、ブッシュ親子によって後戻りができなくさせられた「イスラム対白人社会」の対立構造を、なんとしてでも解消する方向にリードしてほしいと切望せざるを得ません。

 911以前にアメリカがイスラム系のテロに手を焼いたのは、主にPKOなどで派遣した米軍や、米大使館などへの「攻撃」でした。もちろん、こうしたテロを肯定する訳ではありませんが、そうしたテロが行なわれるようになった背景を放っておいて、911の「報復」とばかりにイスラム圏に攻め入ったアメリカの責任は重大です。特に、パパ・ブッシュのいわば「私怨」でイラクを侵略した行為は、世界を不安に貶めたと批判されねばなりません。

 オバマ新大統領は、まず、西欧社会、とりわけアメリカがこれまで行なってきた過ちを素直に認めるべきです。それが、テロの時代を終わりに向かわせる可能性がある、唯一の道だと思います。

2008年11月25日 (火)

本日の「怒」081125/そして抵抗は圧殺される・・・チベットの悲劇


 インドで、亡命チベット人の会議が開かれ、ダライ・ラマが主導する中道路線(中国政府との交渉でチベットの自治権を拡大することを目標にする)が維持されました。この会議は、先週中国政府がチベット問題に対していわば「ゼロ回答」を示したことを受けて注目されていたものです。中国政府高官の発言は、故鄧小平氏の「口約束」をも否定するもので、「すでにチベット問題など存在しない。あるのは過激派のテロだけ」とでも言いたげなものでした。北京オリンピックの聖火問題で国際的に注目されたチベット問題が、世界を覆う大不況問題で忘れ去られてしまったところをみはからった発言だとしたら、残念極まりないことです。中国政府の対応によって、チベット人が過激な方向に向かい、中国政府に弾圧の口実を与えてしまうことになるのではないかと危惧してしまいます。

 国際社会は、長い間チベット問題について無関心でした。東西冷戦時代は、チベットの内情があまり伝わって来なかったこともその一因ですが、改革開放路線が定着してチベットの実情がわかってきてからも、中国政府に対する遠慮なのか、チベット問題が真正面から取り上げられることは少なかったのです。

 少数民族は、国家からは弾圧され、国際社会からは時の国際政治の潮流によって翻弄されてきました。旧フセイン体制では、アメリカはイラン国内のクルド人に対してCIAを通した武器援助を行なってきましたが、トルコ国内のクルド人に対しては冷淡でした。アメリカはクルド人の権利を考えていたのではなく、アメリカにとって都合の良いようにクルド人を利用していただけなのです。世界経済が大混乱にある今、経済的にも政治的にも強大になった中国に対して、アメリカはチベット問題を正面から取り上げることはしないでしょう。日本政府も、北朝鮮問題を抱えて、六カ国協議の主導国である中国政府のご機嫌を損ねるわけには行きませんから、チベット問題などにかまっている余裕はありません。

 こうして、少数民族の悲劇は再び繰り返されるのです。「浄化」か「同化」が完成するまで・・・

2008年11月 9日 (日)

米国大統領にオバマ氏(3)・・・環境問題など


 前回の「外交」で、中東の最後に書いたのは「イラク」ではなく「イラン」でした。修正してありますが、昨日読んだ方はごめんなさい。

1)環境問題

 民主党内の候補者争いの序盤戦のころの経済情勢であれば、思い切った環境対策を打ち出すことができました。ブッシュ大統領に「疑惑の開票」で破れたゴア元副大統領が熱心に環境問題のPR役を務めたこともあり、アメリカ国内でも環境問題に対する関心が高まりつつあります。「たくさん作ってたくさん消費してたくさん捨てる」ことを美徳としたアメリカ文化にも、ほんの少しですが変化の兆しが見えてきました。先日、テレビで「捨てたもので食事をする活動をしているニューヨーカー」を見ました。スーパーや飲食店で破棄される「賞味期限切れ」の食べ物を集めて食材として利用しよう、というものです。参加者は「これでも十分美味しいものが食べられる」と語っていましたが、こうした活動が目を引くこと自体、「捨てる文化」が定着していることを物語っています。(残念ながら日本もアメリカの捨てる文化に浸ってしまっていますが。)最近の経済の悪化は「捨てない」文化を定着させるという副次的な作用が働くかもしれません。

 しかし、環境問題に対する意識は、アメリカ国民の多くの中から消し飛んでしまったような感じがします。昨年来の原油価格や原材料の高騰は、環境破壊が心配されているアラスカでの新たな油田の開発や、一時止まっていた新規原発の建設再開につながってしまいました。今回の不況が未だかつて経験したことがない状況に陥ってしまうと、環境に対する意識はますます遠くなるでしょう。

 私は、環境問題に対するアプローチは、外交とともにオバマ政権の性格を決定づけるひとつの要素になると思っています。初のアフリカ系大統領という面が強調されていますが、オバマ氏は基本的にはリベラル派というよりは中道右よりで、非妥協的な政策を選択するとは思えないからです。オバマ氏が、「世界で一番地球環境に負荷をかけているのがアメリカなのだ」という厳然たる事実を認めることができるかどうかが、この問題に対する鍵となるような気がします。

2)人種問題など

 選挙直後の調査によれば、黒人層の9割がオバマ氏に投票した一方で、白人はマケイン氏に50%を大きく超える票が集まりました。「クリントン支持者の多くがマケインに流れる」という民主党執行部の「危惧」が、ある程度当たっていたことを示しています。非白人層の有権者登録が激増し、投票率が記録的な高さになったことで、今回の選挙の結果が「オバマ氏大勝」になったのです。近い将来、アメリカは白人が多数派ではなくなると言われていますが、その結果を先取りしたとも言えるでしょう。こうした状況に危機感を持つ白人層が多いのは確かなようです。テレビのインタビューで「黒人が大統領になるなんて考えられない」「オバマは本当はイスラム教徒でクリスチャンではない」などと発言する白人市民が何人もいましたが、人種別の大学入学定員枠の問題など、「行き過ぎた平等政策」を問題視する層は確実に存在します。

 また、大統領選挙と同時に行なわれた住民投票で、同性の婚姻を認めない州憲法の改正が、同性婚を認めてきた州で多数を占めました。「受精時から人として認める」という提案は否決されましたが、レーガン~ブッシュ時代に勢力を増したプロテスタント原理主義者などの主張(学校で進化論を教えない、など)と、どのように対応していくかどうかも試されるでしょう。連邦最高裁の人事などとともに、「オバマ氏なら変えてくれる」と期待している層に応えられるのかどうか、価値観の多様性を認めない層とどのように折り合いを付けるのか、も、人種の問題とともにオバマ氏にのしかかってくる課題です。

3)保険制度などのセイフティーネット政策

 ヒラリー・クリントン氏がビル・クリントン大統領時代からこだわっていた問題が、医療制度と保険の問題です。国民皆保険制度が完備されていないアメリカでは、日本の生活保護世帯にあたる人たちへの医療保障精度はありますが、受けることができる診療には限りがあり、お金がかけられるかどうかでかなりの差ができてしまいます。大きな政府につながる皆保険制度は、共和党政権(また、共和党が議会の多数をにぎる)では受け入れにくいものでした。ヒラリー氏の主張は、かなり多くの支持を得ていました。民主党の選挙戦の中で、オバマ氏はヒラリー氏の政策をかなり「取り込み」ましたが、ヒラリー氏とはやはりかなり温度差があります。この問題は、政府の役割という「発想の根源」にかかわるものなので、オバマ政権の性格をはかるリトマス試験紙になるでしょう。オバマ氏のキャリアからいって、低所得者層の実態や彼らが必要としているものは理解しているでしょうから、あとはこうした層への政策の理論的な裏付けをしっかりして、小さな政府を望む勢力をどのように納得させるかがテーマになるはずです。

● まとめ
 
 今回の金融危機が100年に一度だとすれば、オバマ大統領の登場も、世界史的な意識の転換点を象徴するものになるかもしれません。歴史的な意味は時間が経たないとはっきりしないのですが、レーガン大統領、サッチャー、中曽根両首相に象徴される時期に始まった「価値観の違いを押しつぶしてしまう陰鬱な雰囲気」が変動を始めたのは確かだと思います。30年近く、毎年のように「世の中がだんだん悪くなっている」と思ってきた私としては、オバマ大統領の登場がこの悪い流れを変えてくれる起爆剤になってほしいと、切に願っています。

2008年11月 7日 (金)

米国大統領にオバマ氏(2)・・・外交はどうなる?

● 外交政策

 ブッシュ政権にとって経済政策は「不幸な巡り合わせ」という側面を否定できませんが、外交政策については「不幸な8年間」を作り出した責任は重大です。アメリカ外交をまるでおもちゃのように使い、世界中に不信と相互不信を振りまいた8年間でした。オバマ政権は、まずブッシュ政権が積み上げた「負の遺産」を清算することから始めなければなりません。

1)イラク、イラン、アフガニスタン

 外交問題が大統領選挙の主要なテーマだった初期には、オバマ候補はかなりはっきりとイラクからの撤退を訴えていました。アメリカ大統領選挙の常ですが、候補が絞られていくに従ってはっきりとした政策は後退し、「現実を受け入れた」中道よりの政策が多くなります。オバマ候補も例外ではなく、イラクについては「即時撤退」から「現実的なシナリオ」を重視するようになりました。当選した後の一部の報道では、国防長官候補にパウエル氏や現職のゲイツ氏の名前すら上がっています。ブッシュ政権と「けんか別れ」をしたパウエル氏はともかく、現職のゲイツ氏の名前が浮上すること自体、オバマ政権がイラク問題について明確な展望を描けていないことを物語っています。

 イラクの現状は、大変に複雑です。旧フセイン政権下で迫害されていたクルド族は、アメリカとの関係を重視し来年1月以降の米軍の駐留(国連決議による駐留期限が12月にくるため)にも理解を示しています。一方で、多数派を占めるシーア派はイランの後ろ盾を得ているので、米軍の駐留延長には基本的に反対の立場です。イラク政権は越境攻撃の禁止(参照http://do-do-do.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/11-6589.html)などを盛り込んだ駐留延長の修正提案をブッシュ政権に対して行なっていますが、現ブッシュ政権はこの修正案には否定的です。

 この複雑な状況で解を見つけるのは大変困難だと思いますが、最初に取り組むべきことは、「誤りを誤りとして認めること」でしょう。ブッシュ政権は「誤った認識に基づいて」イラク侵略を始めました。このことについてのハッキリした見解を出せるかどうかが、オバマ政権が中東でのプレゼンスを保てるかどうかの鍵になると考えます。新旧ブッシュ政権は、軍事力で中東でのアメリカの権益を守り、ドルの基軸性を守ろうとしました。それが完全に破綻した今、オバマ政権に求められるものは、軍事力に頼らない真の外交能力です。

 アフガン政策の確立は、さらに困難を伴うでしょう。国内向けには「テロとの闘い」の看板を下ろすわけにはいかない米国大統領として、オバマ政権が取り得る政策の選択肢は多くないからです。アルカイダの行動を是とすることは決してできませんが、アラブの民衆の中からアルカイダを生んだ土壌を作ってしまった米ソや英国などへの不信感を、かの地の民から一掃することは容易ではないでしょう。力づくで押さえ込むことの無謀さ、無益さは、アメリカも旧ソ連も痛いほどわかっているはずなのですが・・・

 イランに対しては、若干宥和的になる可能性があります。現実的な問題として、イラクやアフガニスタンの問題を抱え、さらにパキスタンがムバラク政権時代のようにアメリカに協力的ではなくなった今、イランと全面的にやりあうゆとりはないからです。すでにロシアがイランの核開発に対して肯定的であり、EU諸国が「条件闘争」を選択した以上、アメリカ一国がイランに対して強攻策を取ることは、実質的にもあまり意味がないことも忘れてはなりません。ブッシュ政権のような「原理」を持たないオバマ政権が柔軟な対応に出る可能性は少なくないと思います。

2)対中、アジア

 最初に問題になるのは、経済関係だろうと思います。基本的に自由貿易主義を貫こうとする共和党政権に対して、国内対策を優先する民主党政権は、通商問題については宥和的ではありません。アメリカの貿易赤字の3割を占めるに至った中国との通商問題が、オバマ政権の対アジア政策に対して大きな影響力を持つことは間違いありません。世界経済が「好調」だった今春までは、中国政府もアメリカをできるだけ刺激しない政策を取ることができました。アメリカが構造的な問題であると感じている元・ドルレートは、一昨年以来徐々に元が切り上げられる形で誘導されてきました。中国経済が10%にも及ぶ成長を続けている間は、緩やかな「元高」を中国が受け入れる余地があったのです。しかし、世界の工場として機能し始めた中国が、世界同時不況に突入した現在、この「余裕」を失ってしまう可能性は大いにあります。「中国の好況はどうせ北京オリンピックまで」という論調が、中国が世界経済の中で果たす役割を過小評価したものであることは明らかになりましたが、中国経済がアメリカや日本、諸外国の経済の影響を大きく受けることには変わりありません。輸出が減少すれば、中国政府としては元のレートを引き上げにくくなり、アメリカの経済界との摩擦が大きくなることは必然でしょう。ブッシュ政権のもとで勧められていたFTAなども、オバマ政権のもとでは見直されるでしょうから、対外経済については他国との軋轢を抱えることになるかもしれません。

 北朝鮮問題については、ブッシュ政権より柔軟な姿勢をとることは間違いありません。これは、拉致問題の解決を米国頼りにしてきた日本としては、後ろ盾がなくなることを意味します。全体状況を把握することなしにスタンドプレーに走った小泉元首相のいい加減な外交のつけがまわってくるでしょう。六カ国協議の行方は予断を許しませんが、オバマ政権はなんらかの合意形成に動く可能性が強いと思われます。アジアにおける中国の存在が大きくなった以上、経済関係が良好であり得ない状況で政治的なリスクを負う政策はとりにとりにくいのではないかと思うからです。

 対北朝鮮に対して宥和的になれば、とうぜん日本との関係も微妙になります。オバマ次期大統領は、日本のマスコミのインタビューに答えて「対日政策を重視する」という発言をしていましたが、アメリカの国益を重視する姿勢は、強くなりこそすれ弱まることはありません。小泉政権でも、形だけは「首脳個人の信頼関係」で「最高の二国間系」を保てていましたが、これも小泉政権がアメリカの言いなりになっていたからであり、今後は日本にとってかなり厳しいやりとりが続くでしょう。

 米軍の再編問題については、基本的にはブッシュ政権が打ち立てた方針を踏襲すると思われますが、要求はさらに厳しくなるはずです。日本側の不手際で遅れている沖縄の米軍基地の再編などに対する圧力も、これまで以上に強くなるでしょう。

3)対EU

 これは二つの側面を抱えています。ブッシュ政権では、国連を軽視した独自外交を行なって、EUとの関係が微妙になりました。イラク戦争の開始段階では、イギリスを始めとして、多くのEU諸国が大量破壊兵器の存在を強く示唆するアメリカの方針に賛同したのですが、イラク戦争での誤魔化しがハッキリすると、ほとんどのEU諸国がアメリカの外交に対して懐疑的になりました。もちろん、ポーランドのように、ロシアとの関係でアメリカと良好な関係を維持する必要が強い国もありますが、中東問題については(通貨の問題もからんで)米欧の関係は微妙でした。オバマ政権になれば、この点での米欧のずれはかなり解消されて、関係が良好になるひとつの要因になるでしょう。

 環境問題へのアプローチも、米欧の関係を強化する可能性がある分野です。ブッシュ政権は、地球環境に対する認識が甘く、経済(と資本の要求)をあくまで中心に捉え、環境対策に熱心なEU諸国と鋭く対立してきました。オバマ政権になれば、地球環境に対して何ら注意を払わなかったブッシュ政権の政策は大きく転換されるはずです。

 一方で経済政策では、米欧の関係が微妙になる要素が強くあります。ドルが唯一の基軸通貨だった時代が去り、ユーロがもうひとつの基軸通貨として機能するようになると、ドルの相対的地位は下落します。米政府は、中国や中東からの巨額の投資を引き出すことには成功しましたが、世界中が抱えているドル資産の行方は、アメリカと他の国、特にEUや中国、中東諸国のとの関係に影を落とす可能性が強いと思います。

 NATOに関しては、ロシアとの関係をどのように構築するかにかかっています。

4)対ロシア

 これが、一番予想が立てにくい部分です。資源高とソ連時代のような強硬姿勢で圧倒的な支持を得て来たプーチン政権ですが、もともとプーチン首相より対外宥和的なメドベージェフ大統領との関係や資源高騰の一服で、ロシアの内政がどのようになるのか、読めない部分が大きいからです。ハッキリしていることは、EUやNATOの拡大にロシアは非常に危機感を持っていて、それに対抗する政策は緩めないだろう、ということです。オバマ政権がブッシュ政権の対ロ政策を引き継ぐような形になれば、関係は改善されないでしょう。

2008年11月 6日 (木)

米国大統領にオバマ氏(1)・・・オバマ大統領の歴史的な意味と経済政策


 米国大統領選挙で、予想以上の差をつけてオバマ氏が当選しました。2年近くにもわたる選挙戦の中ではさまざまなことがありましたが、当初は「経済に弱い」とされ「ウォール街はオバマ氏だけは勘弁と考えている」とも言われていたオバマ氏が、折からの金融危機で支持を伸ばして当選したことは、政治や経済、社会現象が生き物のように変化するものであることを物語っています。相次ぐ外交政策の破綻で、米国民がブッシュ政権を選択したことが誤りであったことに気がつき、一時は「誰が出て来ても民主党の勝ち」と言われた今回の選挙ですが、ヒラリー・クリントン氏とオバマ氏のデッドヒートの後遺症で、早々に共和党の候補者となったマケイン氏(自身の復活も奇跡的でしたが)にリードを許した時期もあり、オバマ氏にとっては結果ほど「楽な」展開ではなかったでしょう。

● 価値観の大変動の時期に登場した、初の黒人系大統領

 選挙戦まっただ中に起こった金融危機のスケールがあまりにも大きかったために、どうしても経済の側面にだけスポットが当たりやすい状況ですが、私は、実は今の時期は、多くの価値観が大きく変動する、時代の節目にあるのではないかと思います。今回の金融危機とよく比較される大恐慌時代から考えてみると、その理由がよくわかります。

1929年 暗黒の木曜日・・・大恐慌時代へ
  アメリカの株式市場の暴落をきっかけにした世界大恐慌は、ブロック経済化を押し進め、第二次世界大戦を引き起こすひとつの重要な要因となりました。価値観、という意味では、第一次世界大戦とロシア革命の時代(1914〜1917)がターニングポイントだと思いますが。
1945年 終戦・・・東西冷戦
  冷戦が実質的に始まったのは大戦中ですが、大戦後、西側では荒廃した欧州に対して、アメリカが「一強」の時代を迎えます。しかし、欧州の復興やアジア・アフリカ諸国の独立とともにアメリカ中心の価値観にゆらぎが生じます。ベトナム戦争で痛手を負ったアメリカは、ニクソンショック、石油ショックを経て、新たな価値観を求めます。
1980年 レーガン大統領登場・・・新保守主義、新自由主義経済へ
  レーガン大統領の時代は、ソビエト連邦の解体、そしてそれに続く冷戦終結の時代です。経済的にはアメリカが主導した新自由主義(レーガン大統領のもとではレーガノミックスと呼ばれました)が世界中に広がり、価値観の多様性を否定する政策が幅を利かせた時代です。結果として、価値観がぶつかる場面が増え、テロの時代となりました。
2008年 金融危機・・オバマ大統領へ

 こうして眺めてみると、価値観の大きな変動が25年から30年ごとにやってきていることがわかります。そして、その節目では、経済構造の大きな変動が起こっているのです。金融危機によって露呈した新自由主義・新保守主義の危うさが、次の価値観を求める米国民を突き動かしたことが、オバマ氏を大統領に押し上げた力なのです。

 現ブッシュ大統領が当選したとき、レーガン大統領以降の「危険な」方向がさらにはっきりした結果を生むであろうことが容易に想像できました。私は「テロの時代がやってくる」と感じたのですが、残念ながら経済状況についても、想像以上の事態を招いてしまいました。さまざまな数字が飛び交っていますが、デリバティブで世界中にばらまかれた実態を伴わない「価値」は、540兆ドルとも800兆ドルとも(円ではない!!)言われています。これが全面的にクラッシュしてしまえば、もちろん世界経済はひとたまりもありません。

 こうした状況の中で誕生したオバマ次期大統領ですが、先行きは簡単な道ではないでしょう。それは、「ヒーローはいても核になる思想がない」ことが原因です。これまでの大きな転換期には、必ず「ヒーロー」と「ヒーローを支える思想」がありました。レーガン大統領の政策は、大統領自身や側近が作り上げたものではなく、1960年代から語られていた新保守主義と新自由主義に立脚したものです。オバマ次期大統領は、その演説や行動力で「ヒーロー」たる資質は十分にあるでしょう。しかし、30年にわたって積み重ねられて来た現実を乗り越えられる思想的支柱は、今のところ見当たりません。それが構築されるまでに何年かかるかわかりませんが、その間は混沌の中での舵取りを強いられることになるでしょう。もちろん、個別の問題に対する対策はいろいろ出てくるのでしょうが、個別対応を積み上げたところに解があるのかどうかは、誰にもわかりません。

● 経済政策は手探りになる

 アメリカの有権者が重視したのは、選挙戦が始まった頃は外交・安全保障政策でしたが、最終的には経済政策でした。しかし、オバマ氏が現状のアメリカ(世界)経済に対して何らかの有効な政策を持っているから支持されたのではありません。有権者の判断は、あくまでブッシュ政権の否定であり、クリントン政権時代の好景気へのノスタルジーです。「共和党=金持ち優遇」「民主党=中・低所得者層重視」という簡単な構図がぴったりと当てはまるわけでもありません。選挙戦を通じて、「戦術」にあたる具体的な対応はいくつか示されましたが、アメリカ経済をどのようにナビゲートしていくかという「戦略」がないのです。もっとも、これはオバマ氏や周辺が無能であることを意味しません。現在の経済情勢は、今までに誰も経験したことがないものですから、現状認識すらまだできていないからです。

 金融バブルの崩壊が実際の経済に与える影響は、アメリカ型の経済では莫大なものになります。高度に発達したカード社会で、購買力の多くを支える市民が「信用」でお金を使っていることがその原因です。「お金を稼いで使う」のではなく「借金して買い物をして稼いで返す」という構造が一般的であったために、一度の躓きが信用の毀損になり、あらゆる支出が困難になってしまいます。いわば、国中が「先行して消費している」状態だったのです。ですから、アメリカ国内ではあらゆる消費が一気に停滞してしまいました。

 GMの経営危機は、アメリカ経済の信用収縮をはっきり物語っています。もちろん、GMが抱える問題は今回の金融危機によって起こったものではありません。莫大な年金・保険費用や小型車シフトへの遅れ、環境対策の不十分さなど、財務的にも販売的にも大きな問題を抱えていたことは事実です。しかし今回の金融危機は、GMにとっては「死刑宣告」に等しいものでした。フォードやクライスラーとの「弱者連合」に生き残りをかけざるを得ない現状が、GMの状況の厳しさをはっきりと物語っています。GMが政府に要求している約1兆円の資金援助はブッシュ政権によって拒否されていますが、裾野の広さや心理的影響などを考えると、何らかの形で公的援助が行なわれる可能性は否定できません。(もちろん、民主党主導の政府になれば、その影響は日本にも大きく及びます。)さらに、流通や他の製造業の業績悪化が顕著になれば、「小型GM」が続出することになるでしょう。

 金融機関や金融市場に対する対応は、さらに困難を極めるかもしれません。CDSなどの「保証の保証」を含んだ証券がどのくらいに上るのかは、現状では「誰にもわからない」状況です。「リスク分散」という名目で世界中にばらまかれた「爆弾」は、世界中の金融当局に緊急の、そして巨額の対応を迫っています。なんらかの対応がなされると、一旦は市場が安定したように見えることもありましたが、株価も為替も「落としどころ」が見えない状態が続いています。オバマ政権にとっては、他国との連携を強化しながら、さまざまな対応を「やってみる」しかない状態がしばらく続くでしょう。

 そして、オバマ政権の手足を縛ることになるのが、巨額の財政赤字です。経済が「好調」であった状況下でも、イラクやアフガンでの巨額の戦費は、アメリカ経済を蝕む「ガン」でした。財政赤字が1兆ドルを超えるという試算もあり、これからの政策がかなり厳しい選択を迫られる可能性もあります。さらに、ドルが基軸通貨としての役割を果たし続けることができるか、という問題ものしかかってくるでしょう。EU経済圏が成長し、ブッシュ政権の政策によって中東諸国のユーロへの移行が活発化して、ドルの相対的な位置が変化し始めています。基軸通貨だからこそできたさまざまな政策が、今までのようには行かなくなる可能性も強いのです。

 こうした難しい状況の中で、オバマ政権がどのような政策を打ち出すことができるのか、注視したいと思っています。

2008年11月 1日 (土)

本日の「怒」11月1日/ブッシュ・アメリカの「まだやるか!」

 昨日の各紙の報道では、イラク政府が地位協定の修正案をアメリカに提示したようです。

**********引用(読売新聞/10月30日)***************

地位協定修正案、イラクが米に提出
 【ワシントン=黒瀬悦成】ブッシュ米大統領は29日、記者団に対し、イラク駐留米軍の駐留継続に向けた米・イラク両政府による地位協定案の修正案をイラク政府から同日受け取ったことを明らかにした。
 大統領は、「協定の基本原則を損ねない範囲で、有益かつ建設的に対応したい」と述べた上で、協定成立の見通しを「非常に楽観視している」と強調した。
 米政府当局者によると、ブッシュ政権は修正案の中身を検討した上で、早ければ1週間後にもイラク側に修正の可否について回答する。AP通信によると、イラク政府はイラク国内で犯罪を行った米兵の処遇など4項目について修正を要求している。
 一方、国防総省のジェフ・モレル報道官は29日、協定が年内に成立せず、来年以降、駐留米軍がイラクで作戦行動を実施する法的根拠を失う事態となれば、武装勢力が巻き返し、「これまでの(治安改善の)成果が吹き飛ぶ恐れもある」と改めて警告した。
 ◆越境攻撃の禁止要求◆ 
 【カイロ=福島利之】イラク政府のダバグ報道官は29日、米国に修正を求めている駐留米軍に関する地位協定案について、米軍がイラク領内から周辺国を攻撃することを禁じる条項を修正案に盛り込んだことを明らかにした。
 駐留米軍がイラクの隣国を越境攻撃した際には、イラク側が協定の無効を宣言できる権利も求めたという。
 米軍が26日、イラク領内からシリア東部を越境攻撃したことを受けた措置とみられ、協定に反対する国内の各勢力や、隣国シリア、イランに配慮したものだ。報道官は「イラクが協定を受け入れるには修正は不可欠だ」と語った。
***********************************

 きっかけとなったのは、26日にイラク領内に展開した米軍がシリアに対して行なった越境攻撃です。米軍側は、アルカイーダの幹部に対する攻撃である、として攻撃を正当化していますが、実際に被害にあったのはテロとは無縁の女性や子どもなど8人。仮に、同時にその幹部を殺害できたとしても、許されることではありません。ブッシュ大統領を殺害するためにワシントンに核爆弾を落とすようなものです。

 アメリカは、父子ブッシュ政権が中東に憎悪を巻き散らかしてきました。結果として何が起こったかは世界中が知っています。それでもまだ、こんなことを続けようとしているのです。

2008年10月16日 (木)

日米両国外交の無様な失態・・・2/アメリカのテロ支援国家指定解除

 テロ支援国家指定解除を受けた新聞各社の社説は、なかなか興味深いものでした。昨日取り上げた産經新聞が「譲歩を重ねたヒル氏の責任は重大」と、アメリカ外交の失敗をはっきり指弾しているのに対し、毎日新聞は「 こうした露骨な揺さぶりに米国が屈したとは思いたくない。少なくとも北朝鮮を6カ国協議の枠内に留め置き、時間はかかっても核廃棄に向けて前進しようという意図から、テロ支援国家指定を解除した。そういう解釈は可能だろう。」と、若干同情的です。朝日新聞になると「苦渋の決断だったに違いない。(中略)このままでは、流れ全体が滞ってしまいかねなかった以上、米国の選択にはそれなりの意味があると考えたい。」と、さらにブッシュ政権に理解を示しています。日経新聞は、タイトルからして「納得できないテロ支援国家指定解除」と、厳しく米外交を非難。読売新聞は比較的無色で、肯定も否定もせずに結果としての問題点を指摘しています。なぜこうした違いがあるのかを検証することも面白いのですが、今回はやめておきましょう。

● 指定解除の意味

 指定解除自体に象徴的な意味合いが強いことは確かです。アメリカには、人権を守らないなどの問題がある場合に通商行為や交流を制限する法律がいくつもあり、現状で維持されている制裁処置のほとんどは指定解除後も変化がありませんし、当初制裁処置の中にあった実際に影響が大きい「預金封鎖」などは、すでに六者協議の枠組みの中で解除されているからです。しかし、政治的な意味合いは決して小さくありません。アメリカは、指定解除を延期すると宣言した状態からさらに後退した北朝鮮に対して、指定解除を行ないました。このことが問題なのは、北朝鮮に対して「瀬戸際外交」が有効であるという「誤ったシグナル」を送ってしまったことになるからです。レイム・ダック化したブッシュ政権のとって有効であった、という「時限的な」意味はありますが、それにしても今回の指定解除の政治的な意味は小さくありません。

 日本にとっては、アメリカの決定は外交上の大きな失点になりました。11日に「今日指定解除がなされることはない」と断言した政府高官の言葉とは裏腹に、10日には韓国政府に対して指定解除の方針が伝えられていたことが14日付の報道で明らかになりました。日本政府は、今回の決定について完全に「蚊帳の外」であったことが明らかになったのです。首脳の個人的な信頼関係(それすらも怪しいのですが)に頼り切って、国内向けには受けの良い発言を繰り返すばかりだった政府・与党の方針の、完全なる失敗であったと言わざるを得ません。

● 6カ国協議を簡単に振り返ると

 そもそも6カ国協議は、1994年に起こった北朝鮮とアメリカとの緊張関係からの脱却を目指して訪朝したカーター元大統領と当時の金日成主席の会談に基づいて合意された「枠組み合意」がスタートです。プルトニウムへの転用が容易な黒鉛減速炉のかわりに軽水炉を供給することと、原子炉が稼動するまでの発電用の重油の提供がその内容でした。しかし、建設が始まった軽水炉に対してのIAEAの査察を北朝鮮が拒否する、などの問題が起こり、軽水炉の建設は遅れてしまいます。その間に北朝鮮とアメリカの思惑の違いが鮮明になり、2002年には北朝鮮が核兵器の保持のための計画を公表。それを受けて対立が明確になり、北朝鮮のIAEA脱退、さらに2006年にはNPTも脱退し、核兵器保有宣言をするに至ります。その間、断続的になんとか続いていた6カ国協議も機能しなくなったのです。日米は各種の制裁処置をとって対抗しましたが、一時的に効果があったものの、北朝鮮の方向性を変化させることはできませんでした。

 ここに、二つの問題がからんできます。ひとつは、ブッシュ政権の外交戦略の失敗が明らかになり、2006年の中間選挙で共和党が惨敗したことで、もうひとつは、日本の拉致問題です。

 ブッシュ政権は、イラクに対して大量破壊兵器の存在を指摘して侵略行為を行ないました。ブッシュ大統領の目的はフセイン打倒と石油利権の確保でしたが、武力行使を正当化しようとした大量破壊兵器の存在が、ねつ造されたデータに基づくものであることが明らかになると、国際世論のみならず米国内の風向きも変化しました。結果として2006年の中間選挙で共和党は大敗を喫し、「次期大統領選挙は誰が出ても民主党の勝ち」と言われるほど共和党の支持が落ち込んだのです。結果として、ブッシュ政権は生命線である「テロとの闘い」のイラク、アフガニスタン以外の外交政策に取り組むゆとりをなくし、北朝鮮に対して宥和的な政策に転換します。

● 戦略なき日本外交の迷走

 日本は、拉致問題を政権浮揚のために用いたことで、対北朝鮮政策の選択肢を自ら狭めてしまいました。原因は、ほぼ10年間にわたる無原則な外交姿勢にあります。小泉元首相はブッシュ大統領との個人的な関係を誇示し、ブッシュ政権のイラク戦争に無原則に加担して、それまで比較的良好だったイスラム諸国の人たちの日本に対する意識を地に落としてしまいました。そして、韓国や中国を挑発してアジア近隣諸国との関係を最悪の状態に追い込んでしまいました。ロシアとの関係もまったく進展せず、アメリカ偏重主義はEU諸国の日本に対する不信感の増大という結果を生んだのです。そんな中で、唯一、国民に「受ける」外交課題が拉致問題でした。「拉致問題の解決のために」というお題目が政治家の人気取りに利用されて、有効な外交政策を立てる能力を失っていったのです。国内向けに拉致問題を強調すればするほど、6カ国協議の場での選択肢は狭くなっていきました。結果的に、アメリカにははしごを外され、中国やロシアには足下を見られ、韓国には相手にされない、という八方ふさがりの状況に陥ったのです。

 その象徴が、「テロとの闘い」への協力、すなわち、インド洋でのアメリカ艦船への燃料補給問題でしょう。政府・与党は、「補給をやめれば、テロと闘う国際社会から孤立する。特にアメリカからの信頼を失って、日本の立場が弱くなる」と主張してきました。昨年に続き、補給法案の延長が国会を通過することはほぼ間違いありませんが、結果として日本はアメリカの外交政策になんらの影響力も持ち得ないことがはっきりしました。

 日本の国益にとっては、拉致問題の解決だけではなく核の問題も大きなテーマです。そして、現実的は北朝鮮がアメリカがこの問題を話し合う唯一の相手であると判断している以上、日本がアメリカとの協調を失ってしまっては何も進まなくなるでしょう。そして国家間の協調とは、首脳同士の個人的な関係によって劇的に変化するほど単純なものではありません。また、自国の立場だけを主張することではなんともならないのです。そして、主張すべきは主張することが必要ですが、その前提として「相手の主張も聞く」ことが不可欠なのは、個人のコミニュケーションと同じことだと思います。

 現実問題として、今回の指定解除は、日米両国にとっては屈辱的な、そして「危険な」内容です。北朝鮮の核問題の解決にはほとんど寄与しないことは、新聞各紙も指摘している通りです。「北朝鮮が新たな査察や検証に合意するはずがない」と言うか、「新たな合意に向けて厳しい道のり」と表現するかの違いはありますが・・・この時点で、明確な対北朝鮮政策を策定しないと、取り返しのつかないことになるような気がします。

2008年10月15日 (水)

日米両国外交の無様な失態・・・1/アメリカのテロ支援国家指定解除

 ブッシュ政権が引き延ばしていた北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除に踏み切りました。ある程度予想されていたこととはいえ、日米両国の外交能力の低さを示した出来事です。アメリカは「北朝鮮は申告済み施設の検証に応じ、それ以外の各施設についても交渉に応じる」と、あたかも北朝鮮の核問題が進展したかのような発表を行ないました。発表直前までアメリカ政府に対して指定解除を思いとどまるように「お願い」していた日本政府は、麻生首相が「指定解除は核問題を進展させるためのひとつの方法だ」と、直近のドタバタぶりを頬被りしたコメントを出しています。

 外交は、国家戦略を左右する大きな仕事です。しかしアメリカは、ブッシュ大統領が登場して以来、ことごとく外交問題で失態を繰り広げてきました。日本は、アメリカに追随する以外の方法がなく、世界中の国から「外交べた」と失笑を買い続けています。ブッシュ政権が登場して以来の、アメリカ外交の「成果」を並べてみましょう。

1)テロの拡散、イラク、アフガンの問題

 ブッシュ政権が登場した7年前、私は「これでテロの時代が始まる」と予測しました。パパ・ブッシュの失敗を取り返すこと(イラクのフセイン政権をつぶす)が第一目標であること、ブッシュ家周辺の経済利権(石油資源)に左右されること、そしてネオコン主導の外交が、価値観の違いを認めないアメリカを復活させて、他国との軋轢が大きくなるだろうことが容易に想像できたからです。残念なことに、この予想はことごとく当たってしまいました。フセイン政権を排除したものの、イラクは未曾有の大混乱に陥り、罪なき民衆が何十万人も殺されました。アフガンでは、排除したはずのタリバーンがいまだに力を持ち、内戦状態は一向に終着点が見えない状況です。「テロとの闘い」は、イスラムの民衆の怒りと憎悪を増幅させ、パキスタンでは親米ムシャラフ政権が敢えなく討ち死にを遂げています。ブッシュ政権の8年間は、イスラム世界と欧米社会とに決定的な溝を作った時代として、歴史に長く刻まれるでしょう。

2)核不拡散条約の有名無実化

 この問題については先月、やや詳しく述べました。アメリカにとって各不拡散条約とは「アメリカの利益のみを守れば良い」ものであることを、インドとの合意がハッキリ物語っています。

3)ロシアの強大化と周辺国の問題

 プーチン前大統領は、恐怖政治と経済支配によってかつてのソ連のような体制を作り上げました。折からの資源高騰や経済発展で国民からの支持を盤石なものとしたロシアは、強気の外交を展開しています。ロシアを封じ込めようとするブッシュ政権は、迎撃ミサイルの配備やNATOの東への拡大を図ってきましたが、こうした姿勢が、結果的にロシアを強硬路線に追い込んでいったことは明らかでしょう。

4)資源外交

 原油価格の高騰は、ブッシュ政権にとっては「嬉しい」事態だったはずです。石油利権を基盤にした現在の政権にとっては、原油の高騰により直接的な収入が増えると同時に、環境問題を吹き飛ばして石油資源の開発に邁進できること、また、原子力発電所の新設を再開できることなど、ブッシュ政権に近い共和党の路線に沿った政策展開が可能になるからです。しかし、積極的に資源外交を展開する中国に対する評価を誤り、原油価格は制御不能の状態に陥りました。切り札と意気込んだ「バイオ燃料への転換」は、食料価格の高騰をもたらし、経済の混迷を深くしました。世界中の国々が、この状態に苦しむことになったのです。

5)中東の和平プロセスの停止

 クリントン政権が政権末期に力を注いだ中東の和平プロセスは、ブッシュ政権になって当然のように停止しました。イスラム圏を完全に敵に回したブッシュ政権は、中東の和平プロセスには大きな関心を寄せていません。ですから、予定されたことであって「失敗」ではないのかもしれません。

6)対イラン外交

 価値観の多様性を認めないブッシュ政権の支持基盤の主張は、当然のようにアメリカを敵対視する勢力に力を与えます。イランでは反米を掲げる革命保守派のアフマディネジャド大統領が登場して以来、アメリカの中東におけるプレゼンスの低下は著しいものとなっています。ロシアやEU諸国とは「是々非々」で関係を保っているイランにとっては、アメリカ一国が「騒いだ」ところで痛くも痒くもない、というところが本音でしょう。

7)中南米諸国での反米意識の高まり

 ブッシュ政権の外交政策の失敗は、中南米でも顕著です。特に、CIAが全面的に協力した2002年のベネズエラのチャベス大統領追放劇が、その傲慢さと想像力のなさを象徴しています。富裕層と軍部の不満層を巻き込んだクーデターは、一時的に成果を収めたかに見えたものの、結局チャベス大統領の復活を許し、中南米での反米の旗ふり役を作り上げてしまうことになりました。

8)国連の「無力化」と国際協調と法への不快感

 国連を「悪である」とする「ネオコン」の主張に沿うように、ブッシュ政権は国連の無力化を推し進めました。国連の決議を経ない武力行使を「自衛権の行使」として行い、国連が自国の利益のみのために存在すべきであるという姿勢を明らかにしました。イラクやアフガンで「逮捕」したイスラム教徒を、「非戦闘員でも戦闘員でもない。テロリストである。だから国際条約で保護を義務づけられている戦闘員でもないし、一般の法で守られる市民でもない」という理由で、国際機関やEU諸国から非難されようとも「超法規的に」軍事基地内に監禁し続けています(実は、米国内の連邦裁判所でも違憲であると判断されています)。こうした姿勢は、ブッシュ政権の間、ずっと続けられてきました。

9)北朝鮮問題

 今回のブッシュ政権の決定が、北朝鮮お得意の「瀬戸際外交」に振り回されたあげくの米外交の大失敗であることは明らかです。施設の老化が始まっている寧辺(にょんぴょん)の核施設など、いくつかの「すでに北朝鮮が申告した」施設「のみ」に対して検証を行なうこと、以上の合意が何もなされていないからです。申告していない施設については、「合意を必要とする」とあり、それらの施設の検証を北朝鮮が拒否することをもって、なんらの制裁処置も下すことができないのです。今後は、北朝鮮は「合意の履行」を求めてくるでしょう。さまざまな制裁の解除、燃料の援助や発電所の整備などに対して「時間を区切った」要求を強めてくることは確実です。アメリカは、北朝鮮の非核化に失敗して「与えるものだけを与えた」形になりました。政権末期で業績を上げたいアメリカの大統領が退任前に外交問題で得点を上げようとするのはいつものことですが、今回ほど「何もないままに」妥協を重ねるのは珍しいことでしょう。「北の挑発に直面する度に譲歩を重ね、最後は指定解除に追い込まれた6カ国協議のヒル米首席代表の責任は重大だろう。「包括的で強力な検証」を掲げた大統領がいかにも北の瀬戸際外交に屈した印象を強めたのは否定できず、マケイン共和党大統領候補など米国内でも強い批判が出ている。」という10月14日付産經新聞の社説が、全てを物語っているでしょう。

 次回は、我が日本の関わりとともに、北朝鮮問題をさらに詳しく振り返ってみます。

2008年9月 1日 (月)

被爆者の叫びを忘れたのか・・・ダブルスタンダードを許容する日本の核外交

 報道によれば、政府は、インドに対する原子力の平和利用についてのアメリカの支援策を容認することにしたようです。日本には独自の外交政策がない、と、以前から感じていましたが、またもアメリカ追随という日本外交の特徴が発揮されました。唯一の被爆国に生きるものとして、とても残念に思います。

 核兵器についての国際的な取り決めは核拡散防止条約で定められていますが、これは核兵器の廃絶を目指すものではなく、核兵器を「現状以上に」拡げないためのものにすぎません。すなわち、同条約が結ばれた時に核兵器を保持していた国(アメリカ、ソ連、イギリス、フランス)に対しては、核兵器に対しての規制を何もせず、その時点で核兵器を持っていなかった国に対して核兵器の保持を禁止し、それと同時に核の平和利用を認めているのです。平和利用されている各施設に関しても、核兵器に転用が可能なプルトニウムの処理などが厳しく規制され、核兵器を持たない条約加盟国は、国際原子力機関の査察を受けることになっているのです。

 この条約が、当時核兵器を保持していた国々の優位性を保つために作られたものであることは明白ですが、核の平和利用に対する一定の信頼感を醸成して来たことは確かです。日本などの加盟国が、核兵器の保持を疑われることなく原子力を研究/利用してこられたのも、この条約の成果だと言えます(もちろん、原子力の平和利用が良いかどうか、ということは別の問題です)。しかし、この条約はたくさんの大問題を抱えた欠陥条約なのです。と同時に、この条約を自国に都合の良いように利用して来た核保有国によって、実際にはこの条約は「核を拡散させない」という目的においても、まったく意味をなさなくなっています。現に、イスラエル、インド、パキスタンは核兵器を保有していますし、過去には南アフリカなどが核兵器の研究をしていたことが明らかになっています。

 この条約が不平等条約であることは明らかですが、それ以上に、インドやパキスタンの核武装を許してしまったことは、アメリカとイギリスが振りかざして来た外交の「ダブルスタンダード」が大きな原因です。イスラエルの核武装を不問にした米英の姿勢が、核兵器の不拡散が「大国のご都合」であることを世界に明らかにしてしまったからです。インドは、アラブ諸国に対抗するために核兵器を持ったイスラエルと同じように中国に対抗するために核武装をすすめ、インドと対峙するパキスタンは、インドに対抗するために核武装しました。(もちろん、イスラエルもインド、パキスタンも核拡散防止条約には加盟していませんので、国際法上、核武装することが条約違反などの問題になることはありません。)

 さて、問題は日本の立場と外交政策です。外交政策について全面的に議論を展開してしまうと大変なのですが、私が不満に感じているのは、被爆国として、アメリカのご都合主義に合わせる外交でよいのか、ということです。「日本はアメリカの核の傘によって守られて来たのだからしかたがない」「アメリカから外交的に独立するためには核武装すればよい」という暴論についてはここでは論じませんが、核兵器のむごたらしさを経験したからこそできる外交手段はあるはずです。

「経済一流、政治は三流」と日本が揶揄されていたのは、もうだいぶ昔になりましたが、「三流」といわれるひとつの大きな原因は、外交政策の拙劣さにあったことは明らかでしょう。それは、日本の外交政策には「原則」「意思」がないからだと思うのです。そうした戦略無き外交の積み重ねが、いざというときに自国の主張を述べることができない(外交的な)政治状況を作ってしまったのだと思いますが、「日本は核兵器廃絶に向けての意思を強く持っている」というスタンスを打ち出せないようでは、犠牲になった何十万もの被爆者が浮かばれないでしょう。

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