これで大胆な「チェンジ」が期待できるだろうか/オバマ新政権の閣僚名簿から読めること
オバマ次期米大統領が、経済関係閣僚に続いて、外交防衛政策を担うメンバーを発表しました。目玉は、クリントン国務長官とゲーツ国防長官です。読売、産経両紙は、クリントン氏の対日外交などへの注文を付しながらも、社説で評価と期待を表明しています。これまでブッシュ政権が行なって来た「テロとの闘い」を継続すること、アメリカの指導力を回復させることを期待している内容です。
(そうした意味で、「国家安全保障は超党派で、という米国の伝統を尊重する」と語ったオバマ氏の現実感覚は評価できる。とくにイラクでは、政治がようやく安定し始めたばかりだ。米軍の早期撤退公約にこだわって、これまでの成果を無にすることがないように柔軟な対応を注文しておきたい。/産経社説から)
(来年1月20日にスタートするオバマ次期政権は、これらの新布陣で、金融危機でも、イラクとアフガニスタンの二つの戦争、北朝鮮やイランの核問題でも、目に見える成果を出さねばならない。ゲーツ国防長官、ジョーンズ大統領補佐官については、手堅い人事と言える。オバマ氏の外交・安全保障面での「経験不足」を補う狙いもあろう。/読売社説から)
毎日社説も期待を表明していますが、スタンスはかなり違います。
(クリントン氏の起用発表にあたりオバマ氏は重要課題として、イランや北朝鮮への核兵器拡散防止、イスラエルとパレスチナの永続的和平の追求、国際機関の強化などを挙げた。北朝鮮核問題を重視する姿勢は歓迎できる。北朝鮮の核・ミサイルや拉致の脅威にさらされる同盟国・日本の実情を理解してほしい。
国際テロの根源ともいわれながら、ほとんど顧みられないパレスチナ問題に配慮した点も評価したい。クリントン氏は大統領夫人時代、パレスチナ独立を支持する発言をしたが、上院議員出馬を境にイスラエル寄りの姿勢を強め、イランにも厳しい態度を打ち出すようになった。
こと中東問題では両者の意見は異なるが、ブッシュ政権のような「イスラエル一辺倒」の姿勢は反米感情を増幅し、イスラエルにも累が及びかねない。中東和平を「鬼門」とせず、テロ抑止の幅広い観点から賢明に対応すべきである。
オバマ氏がイラクやアフガン情勢の打開に意欲を持っているのは、国家安全保障問題担当大統領補佐官にジョーンズ元北大西洋条約機構(NATO)最高司令官を起用したことでもうかがえる。「テロとの戦争」を始めたアフガンで、その「戦争」終結をめざす考え方だが、米軍増派で今以上の泥沼に踏み込まぬよう軍事作戦の限界も認識すべきだ。/毎日社説から)
毎日社説にあるように、クリントン元大統領が(特に政権末期に)力を入れた中東和平へのアプローチ、特に、中東問題の根っこであるパレスチナ問題に対して、イスラエルの利益保持だけに関心があったブッシュ政権との違いが出てくることは、十分に期待できると思います。さらに、イラクからの撤退についても、ブッシュ政権が持っていたようなトラウマやプライドから解放されて、対応に柔軟性がでてくることもあり得るでしょう。その点については、期待できるかもしれません。
まず私が「おや」と思ったのは、オバマ新大統領自身の発言です。「米国が指導力を発揮し、21世紀の課題に取り組む新たな時代が来るべきだ」確かに、アメリカ人は(特に変革期には)「ヒーロー」となる、強い指導力を持った指導者を求めます。特に、今回のような選挙戦を行なったオバマ氏は、国民から「変化を起こしてくれるスーパーマン」を期待されていることははっきりしています。しかし、それが「アメリカが世界の指導者である」という意識に直結してしまうと、ことはそう単純ではありません。確かに、アメリカは世界最大の経済力と軍事力を持った国家です。だからといって、「アメリカが一番」という、これまでのアメリカ人が、そして米国の政権が持ち続けて来た意識をそのまま引き継いでほしくないのです。先月書いたように、アメリカが多様な価値観を認めるようになることが「変革」だと思うのです。単に、「世界にテロをばらまいてもアメリカの利益を守る」「環境破壊をしようがアメリカ経済を大きくする」「金が価値観を決める最大のものである」というブッシュ政権の方針からの「変革」では、時代の転換点にある現在の世界を「リードする」ことなどできないでしょう。
そうした点で、今回の外交安保チームにはかなりの不安を感じます。確かに、現実的な布陣なのかもしれません。ファーストレディー時代に培った人脈と経験は、クリントン氏の国務長官というポストには役立つものでしょう。穏健派のゲーツ国防長官なら、イラクからの撤退に向けたプログラムの作成に力を発揮するに違いありません。ライス新国連大使は、国連を徹底的に見下していたブッシュ政権の政策を転換するために力を注ぐでしょう。しかし、いずれも「現在の状況を軟着陸させる」ために必要な人事、という感じがしてならないのです。極めつけは、国家安全保障担当大統領補佐官のジョーンズ氏でしょう。昨年来、イラク問題が話題になると登場するこの人物、イラク侵略に対しては否定的ですが、アフガンについては徹底的な介入を主張しています。こうした人選は、もちろん「アフガン重視」というオバマ氏の路線から見えてくるものではありますが、アフガンで軍事力を誇って介入を強化すれば、また新たな憎悪の連鎖を産んでしまうのではないか、という恐れが拭えません。
経済的には、中国やインドが人口を背景にした消費地や欧米の下請け工場にとどまらず独自の力を発揮し出すと、膨張を続けるユーロ圏やオイルマネーのはざまで、ドルの「一人勝ち」状態は確実に変化します。そうなったとき、またもや軍事力や軍事力を背景にした外交で自国の利益をごり押しするアメリカになってしまうのではないか、と危惧するのです。オバマ氏に「変革」してほしいことは、この「アメリカ至上主義」そのものなのです。


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